2024年11月22日(金)

この熱き人々

2014年7月9日

 「今は俳句を作っている時が一番幸せ」

 別れ際に、独り言のように恩田がつぶやいた。“今”は、切り出された今ではなく、過去とも未来ともつながっている果てしない“今”と聞こえた。余白とは、のたうち回るような半生、言葉と命がけで差し違えるような日々を切に生きたからこそ生まれるものなのかもしれない。研ぎ、磨き、削いで、必死で描き出されたものがあるから、その外側に生まれる余白は誰をも自由に遊び戯れさせてくれる祭りの場になりうるのだろう。

 恩田自身の豊かな余白の祝祭空間の中で遊び戯れさせてもらったような余韻を味わいながら、吉津川、藁科川、安倍川と越えて再び静岡駅へ。夕暮れの静岡駅が、来た時よりもなぜか少し愛おしく感じられた。

恩田侑布子(おんだ ゆうこ)
1956年、静岡県生まれ。高校時代に俳句、短歌を始める。現在「豈(あに)」同人。現代俳句協会会員、国際俳句交流協会会員、日本文藝家協会会員。句集に『イワンの馬鹿の恋』(ふらんす堂)、『振り返る馬』(思潮社)など。2013年、俳句評論集『余白の祭』(深夜叢書社)で第23回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。パリ日本文化会館客員教授。

◆「ひととき」2014年6月号より

 

 

 

 

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