2025年12月5日(金)

深層報告 熊谷徹が読み解くヨーロッパ

2025年8月21日

欧州諸国の作戦勝ちだった

 今回の会議は、ウクライナと欧州勢の作戦勝ちである。ゼレンスキー大統領は、ワシントンでのトランプ大統領との会談が決まった時、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長やフランスのマクロン大統領、ドイツのメルツ首相らに同行するよう要請した。

 その理由は、今年2月にゼレンスキー大統領がホワイトハウスでトランプ大統領と会談した時、トランプ氏やバンス副大統領らから厳しい質問やコメントを浴びせられ、口論になったからである。当時ゼレンスキー大統領は、予定されていた昼食会にも参加せず、ホワイトハウスを去った。

 この口論の後、米国は一時ウクライナへの武器供与を停止した。当時米国とウクライナとの間の関係は、どん底と言うべき状態に落ち込んだ。

 この経験から、ゼレンスキー大統領は単独でトランプ大統領と会談することは不利だと考えたのだろう。欧州からの7人の「ウクライナ応援団」には、トランプ大統領と比較的良好な関係を持っている北大西洋条約機構(NATO)のルッテ事務総長や、イタリアのメローニ首相も加わった。欧州の論壇では、彼らはトランプの耳に囁いて、彼の機嫌を取り、態度を和らげることができる「Trump whisperer(トランプに囁く人)」と呼ばれている。

 この結果、首脳会議ではトランプ大統領は今年2月のゼレンスキー大統領との会談の時とはうって変わったように、協力的、友好的な態度を示した。欧州について極めて批判的なバンス副大統領は、一段後ろの席に座らされ、発言の機会を与えられなかった。

 ゼレンスキー大統領は、記者団との質疑応答の前に、妻がメラニア・トランプ夫人に宛てた手紙をトランプ大統領に渡すなど、終始友好的な態度を取り、報道陣の前では発言も控え目にした。ゼレンスキー氏は、前回服装について批判されたため、今回は上着を着用した。

 この結果、2月にトランプ氏がゼレンスキー氏に「あなたはカードを持っていない」と批判したような、見苦しい事態は避けられた。つまり欧州勢は、思いついたことを衝動的に口にする傾向があるトランプ大統領を、7人の「ウクライナ応援団」で取り囲むことで、トランプ氏に無言の圧力を与え、彼の振舞いを制御することに成功した。

フィンランドも参加した意義

 興味深いのは、ホワイトハウスに集まった7人の欧州首脳の中に、フィンランドのストゥブ大統領が加わっていたことだ。彼はワシントンでの会議の席上、「我々フィンランド人は、歴史的な経験から、ロシアとの対処の仕方をよく知っている」と述べた。ゼレンスキー大統領が彼に参加を要請した理由は、フィンランドが1939年11月にソ連によって侵略されて領土の一部を失った経験を持っているからだ。

 フィンランドは、1940年3月まで続いた対ソ戦争の結果、講和条件の一部として、南東部のカレリア地方をソ連に割譲せざるを得なかった。この結果約42万人のフィンランド人が居住地から追放された。


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