2025年12月6日(土)

偉人の愛した一室

2025年8月24日

 没後3年で完成した「大日本沿海輿地全図」は大図、中図、小図が作られて幕府に秘蔵された。大図は紙214枚に分割して描かれ、つなぎ合わせるとおよそ縦47メートル、横45メートルにもなる。その精度は、経度の測定に限界があり東西にズレが見られるものの、南北の誤差は1000分の3ほど、極めて正確な姿を描き出した。三角測量や地図投影法が確立されていなかった時代、これは奇跡といっていい。これを目にした英国海軍は日本の測量を中止し、写しを持ち帰り翻訳した。勝海舟が幕末に用いた「大日本沿海略図」はこの英国版「伊能図」が元となった。

 忠敬は几帳面かつ謹厳な性格で、実測中は隊員に規律と節制を求め、時間の許すかぎり測量を繰り返して誤差の補正に努めた。その実測距離は4000万歩に達すると井上ひさしは小説で描いたが、老いて大事をなすとはそういうことかもしれない。凡人なりに、せめて志だけは胸に抱いておきたいと思った。

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Wedge 2025年9月号より
日本の医療は誰のものか
日本の医療は誰のものか

日本の医療が崩壊の危機に瀕している。国民皆保険制度により私たちは「いつでも、誰でも、どこでも」安心して医療を受けることができるようになった。一方、全国各地で医師の偏在が起こり、経営状況の悪化から病院の統廃合が進むなど、従来通りの医療提供体制を持続させることが困難な時代になりつつある。日本の医療は誰のものか─。今こそ、真剣に考えたい。


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