2025年12月5日(金)

Wedge OPINION

2025年8月26日

 すでにゼロ金利でもマイナス金利でもない状況下、日銀のさらなる国債買い入れは、日銀の財務のさらなる悪化に直結するゆえ、もはや頼れない。わが国に残された唯一の道は、市場からの財政運営に対する信認をつなぎとめて、市場金利の上昇を抑えるしかない。そのためには、毎年度の国債発行額を減額していくことが欠かせず、基礎的財政収支の均衡や黒字化は当然のこと、利払費を含む財政収支の黒字化が必要である。

 欧州債務危機で財政危機に陥った重債務国の多くや、他の主要国でも、この財政収支黒字化を達成している国はいくつも存在する。それは、当該年度の歳出を利払費や債務償還費まで含めて税収で賄えていることを意味するため、これらの国々では〝新規国債〟は発行されていない。

 国とて、基本的には「歳入の範囲で予算を組む」ことが求められるのは家計と同じであり、何ら突飛なハードルではないはずだ。ところが、わが国では残念なことに、そのコンセンサスすらいまだに形成できてはいない。

 現政権が掲げる「債務残高対GDP(国内総生産)比の低下」だけでは、財政危機を回避できる保証には全くならない。本年6月の国債発行計画の変更は、超長期国債の発行額の減額分を短期国債等の増発で賄う、というもので、目先の国債入札は何とか乗り切れても、来年度の国債発行額がその借換債の分だけ上乗せされ、来年度以降の財政リスクが増幅することになる。

戦後日本でもあった
苛烈な国内債務調整

 「わが国は経常収支黒字だから財政破綻しない」という声を耳にすることがある。その通りだろう。国際金融市場における〝財政破綻〟とは、厳密には、上述のデフォルトを意味し、わが国の場合、その意味での〝財政破綻〟は確かにあり得ないだろう。

 しかし、国債のデフォルトを何としても回避するための「国内債務調整」はあり得る事態で、それはまさに〝事実上の財政破綻〟、〝財政危機〟にほかならない。

 財政危機がどのような順番、パターンで展開するかは、当該国の国債の国内外の保有構造で決まる。欧州債務危機の際のギリシャは、国債の大半を外国勢が保有していたため、12年3月の1回目の財政破綻時には、まずその外国勢に損を被ってもらう形で、国債の元本の53%を踏み倒し、国債のデフォルトを引き起こした(「対外債務調整」)。それでも結局、財政運営を続けられず、ギリシャ国内でさらなる大幅増税や歳出の大幅カットが断行されることになった(「国内債務調整」)。

 これに対して、国債の大半を国内で保有している国で財政運営が行き詰まった場合には、「対外債務調整」とはならず、いきなり「国内債務調整」の局面に突入することになる。

 そうした事態が現実のものとなったのが、第二次世界大戦での敗戦直後のわが国だ。敗戦の約半年後の1946年2月に実施された預金封鎖は「インフレを抑えるため」だけのものではなかった。内国債のデフォルトに踏み切れば、内国債を保有する国内銀行の連鎖破綻を惹起するため、当時の政府は代わりに異例の大規模な国内債務調整を断行することを選択した。


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