2025年12月5日(金)

Wedge OPINION

2025年8月26日

 預金封鎖は、その半年後に、大規模な財産税(あらゆる不動産や金融資産への課税)や戦時補償特別措置税(戦時中に政府が約束した歳出を、同額の課税の形で踏み倒し)を国民全てに対して課す前触れだった。同様の対応は、同じ敗戦国であったドイツやオーストリアでも採られた。

参院選後の課題
財政制約を意識した政策を

 市場金利急上昇で国債発行が困難になれば、国債全額の発行がストップするのが国際金融市場の通例だ。

 国債入札の未達を回避するためには、国債発行額を先回りして減額していくよりほかになく、新規国債の発行どころではなくなる可能性もある。その際、税収は約78兆円規模を維持できるとしても、現状では115兆円の歳出をその中に収めなければならない。

 デフォルトの瀬戸際に立たされる以上、国債費は最優先で確保しなければならず、税収等から国債費を引いた残る約58兆円の中に、現在87兆円を充当している、国債費以外の一般歳出等を収めなければならない。これは、〝歳出の一律3分の1カット〟に相当する。

 国債発行が困難になった局面で、わが国が直面する財政運営の資金ショートの規模は172兆円相当だ。新規国債の発行を全額諦めるとしても、約143兆円の既発行国債の満期は到来する。その元本と同額の借換債を発行するか、税収で元本を償還できなければデフォルトとなる。

 これだけの資金ショート額を現行の基幹課税の税率引き上げで埋めることは現実的には困難だろう。そうなれば、国内に大規模な貯蓄余剰があるわが国では、突如として異例の大規模な資産課税に踏み切らざるを得ず、戦後の苛烈な国内債務調整の再来となりかねない。

 今回の参院選では、物価高対策が最大の争点の一つだった。「給付か消費減税か」ではなく、まず、わが国として安定的な財政運営の継続を死守するうえで守らなければならない財政制約を十分に認識し、長い目で見た対応を考える必要がある。

 今回、与党の一部から、今後、消費税の標準税率の引き上げが避けられないであろう中で、食料品の軽減税率をどうすべきかを検討すべき、という問題提起が行われていた。

 消費税率の引き下げを主張する野党の公約では、財政運営の規律付けに関して一切言及しない党があった半面、消費減税の代替財源として、租税特別措置の縮小等による法人課税の増税等を計数とともに明示していた党も存在した。最初から、「消費税は、社会保障の財源だから、税率は一切下げられない」と決めつけず、選挙戦で示された民意をいかに取り入れつつ、待ったなしの財政再建の断行と両立させていくかが、今まさに問われているといえよう。

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Wedge 2025年9月号より
日本の医療は誰のものか
日本の医療は誰のものか

日本の医療が崩壊の危機に瀕している。国民皆保険制度により私たちは「いつでも、誰でも、どこでも」安心して医療を受けることができるようになった。一方、全国各地で医師の偏在が起こり、経営状況の悪化から病院の統廃合が進むなど、従来通りの医療提供体制を持続させることが困難な時代になりつつある。日本の医療は誰のものか─。今こそ、真剣に考えたい。


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