15日の米アラスカ州アンカレッジでの米露両首脳会談でも、プーチン大統領は「ロシアが受けている脅威」を強調した。そしてそれはプーチン大統領の停戦合意の条件に明白だった。
14年に占領した南部クリミアの地域はロシアの主権を承認すること、ドネツク・ルハンスクはロシアが軍事占領しているという観点からロシアの主権を容認すること、ザボリージャとヘルソン地域は前線を凍結すること、北部のスムイ州とハルキウ州の狭い占領地域は返還用意あり、戦闘地域はウクライナに返還することなどをプーチンは停戦合意の条件とした。ロシアは、ウクライナで、ロシア語に対して公的な地位を与えることや、ロシア正教会が自由な活動を行う権利についても求めた。
しかしこれらの条件はウクライナ側には呑めない。とくにウクライナ東部二州の主権獲得はロシアの譲れない条件だが、他方で、ウクライナにしても領土の譲渡は論外だ。これこそウクライナがロシアと闘ってきた理由だからである。
トランプ大統領は、物理的損得勘定による「ディール」最優先の信条の持ち主なので、軍事大国に対する抵抗は合理的ではないし、損害を少しでも小さくするためには「領土的譲歩」もやむないという立場を公言してきた。ロシアの国際法蹂躙(主権侵害)も、歴史的な国民感情の複雑な絡みもトランプには考慮に値しないかのようだ。
米露会談が始まる前の記者との会話でも、「難しいが交渉開始のプロセスの発端になればよい」という趣旨を漏らしていた。米露会談の道筋をウクライナと話し、少しでも進展を確認してそれを一気に欧州諸国との「合意」、正確には解決への形式的「決意表明」にでもなれば、今後の発展に勢いがつくのではないか。まずはそれがアメリカの義務であるとトランプ大統領は考えていたのではないか。
すぐにも露呈したプーチンの狙い
その意味ではプーチンのご機嫌を損ねないように、そして少しでも妥協的な方向性を模索することにこの会談の意味はあった。プーチンは国際司法裁判所から海外渡航を禁じられているのに、トランプ大統領は大統領専用車にプーチンを乗せ、赤絨毯の上を歩ませた。国賓待遇だった。
米露首脳会談は、その意味ではプーチン大統領の国際社会への復帰と存在感を確認、他方でプーチンにとってこの会談は攻勢に出ているウクライナ情勢をロシアにより有利にするための時間稼ぎとしての首脳会議の利用でもあった。
その結果得られた「成果」は、プーチン大統領がウクライナとの会談に同意したというものだった。提案された露・ウの二者会談後の欧州首脳を含む四者会談はプーチンからとも伝えられる。
それについて実現は困難という議論がすぐに起こったが、実際に19日、プーチン大統領はゼレンスキー大統領との首脳会談を提案した。しかしそれはゼレンスキーにとって到底受け入れられるものではなかった。会談場所をモスクワに指定するものだったからだ。
たださえゼレンスキーは弱い立場だ。ロシアはもとより、トランプ大統領や欧州首脳との会談でも支援を乞う立場である。まして攻勢にある敵国ロシアでの交渉となると、それは事実上「敗北講和」の証明でもある。トランプ流の「心無いディール」の「成果」だった。すぐさまスイスがジュネーブでの開催を提案した。
ラブロフ外相は21日、露ウ首脳会議開催は、事前にすべての課題を検討するべきこと、ウクライナの代表者の正統性の確保(選挙を経ずして任期を延長しているゼレンスキーを正しい意味での大統領と認めない)、ウクライナでの外国国軍の駐留は認めない、と記者会見で語った。
米露会談で約束したトランプが語った二国会談の実質的約束の反古だ。トランプの楽観的見通しの解釈に過ぎなかったのか、プーチンの戦術的詭弁であったのか、真意は不明だが、狐の騙しあいのようなやり取りが続く。トランプ流のディールにプーチンも付き合っているのか。
