トランプによる「安全の保証」の現実性
トランプ・ゼレンスキー会談では、内容は不確かなものの、トランプがウクライナの「安全の保証」を支援する旨明らかにした。ゼレンスキー大統領は米国の関与表明は「大きな前進だ」と述べ、「1週間から10日以内に正式に文書化されるだろう」と評価した。
しかしその内容については「主に航空機、防空システムなどを含む」米国の兵器支援パッケージを含むと示唆したものの、明らかにはしていない。米軍の派遣はないとトランプ大統領が明らかにしているので効果的な米国の「安全の保証」は不確かだ。
兵器支援を強化する中で、欧州諸国軍隊の派兵に期待する向きもあるようだが、それでは欧州諸国はロシア軍と正面から対決する形となる。そのハードルは高いし、現実的に可能な欧州軍の派兵は停戦合意後の平和維持や停戦監視などの任務にとどまるだろう。
欧州諸国はウクライナ戦争をもともとロシアと欧州の対決を口火とする「第三次世界大戦」への導火線になることを最も恐れていたからだ。プーチン大統領が拒否したように、NATO軍の部隊派兵は傷口の拡大にしかならない。
トランプ大統領は、ウクライナのNATO加盟に反対するプーチン大統領の意を汲んで、ウクライナのNATO加盟はないが「NATOの第5条任務(集団防衛義務)」に類似する措置をウクライナにも適応する考えがあることを表明した。プーチン大統領も米国による「安全の保証」には一定の理解を示したかのようにも伝えられる。
米国のウィトコフ特使もそれを確認したが、実際に果たして加盟国ではないウクライナにNATO第5条任務をどのような形で適応するのか。フォンデアライエン欧州委員長も17日「トランプ大統領がウクライナのために第5条任務のような安全の保証に貢献すると述べたことを歓迎。EUを含む有志連合はその役割を果たす用意がある」と述べた。しかしこれは具体的にどういうことを意味するのか不確かだ。
さらに米ウ両大統領はロシア・ウクライナ両首脳会談の準備があることを表明。米国を加えた三者会談への期待も表明したが、すでに述べたようにロシア側が二国会談に同意した背景にはモスクワでの開催というウクライナには呑めない提案をする魂胆がもともと準備されていたのかもしれない。その意味ではウクライナをバックアップする中心は欧州でしかない。
だからこそ米・欧州首脳会議後、ドイツのメルツ首相は「二国会談は2週間以内に行われる」と明らかにし、フランスのマクロン大統領は三者会談の後で欧州首脳を含む四者会談も開催される必要があると釘を刺した。米露の狭間で翻弄される欧州だが、それでもウクライナだけを単独で大国間の交渉に臨ませてはならないという苦衷が滲む。
国際社会のジレンマの中の欧州
そこには欧州の紛争であるウクライナ戦争を自分のイニシアティブでリードできないという欧州・EUのジレンマがある。紛争を左右できるだけの防衛能力を持ちえないからだ。
冷戦終結後、NATOに依存しない形での欧州軍設立の動きはずっとあった。EUは「共通外交・安全保障政策(92年)」や「共通防衛政策(04/09年)」、「欧州統合軍(03年)」を打ち出し、03年には初めて「戦略文書(ソラナ報告)」を発表、16年には新たな戦略文書「グローバル戦略」を発表し、その中で「戦略的自立」概念を提唱した。
17年にマクロン大統領のイニシアティブで実現したEUの「常設軍事協力枠組み(PESCO)」(軍事協力インフラ作り)、さらに22年3月ウクライナ危機直後、「戦略コンパス」(懸案の緊急即応部隊の編成などを主目的)も明らかにした。今年に入ってフォンデライエン欧州委員長は「欧州再軍備」を提案、「EU防衛白書」「2030年に向けた準備」を発表、EUの防衛装備・兵器開発を強調した。
しかしその行く末は不透明だ。各国の財政事情と安全保障観に隔たりがあるからだ(拙稿「見せかけの欧州国防衛費GDP5%合意、変わらぬアメリカへの依存と楽観視、英仏の核兵器「統合運用」の意図とは」Wedge 0NLINE7月14日、「欧州分裂の危機!?ウクライナ支援と「EU再軍備」のかけ声も足並み揃わない各国、防衛産業でつばぜり合いも」Wedge 0NLINE4月16日)。
そうした中でトランプ政権の誕生は一層欧州にとって混乱の極みだ。米露軍事大国によるウクライナ解決は軍事パワー・ポリティクスの再来であり、冷戦構造の再現でもある。しかも21世紀に入って経済・軍事大国化する中国の脅威に対してどう対応するのか。
