対中政策は日米のように安全保障上の直接脅威ではない。しかし他方で経済的に競争国であることに変わりはない(「システムライバル」)。ユーラシア大陸内で言えば、欧州にとって中露の接近はそのバランスが大きく東側に傾く。
今から6年ほど前にマクロン大統領がプーチン大統領を自分の別荘に迎え、主要国首脳会議先進国会議のメンバーに戻そうと画策し、さらにロシアを含む欧州安全保障体をロシアに提案したのは、ロシアを中国の接近に追いやらない意図があったといわれている。それが今や現実だ。
そして米・中露の対決構造の狭間で欧州は対中関係では米と利害関係を同じくしつつ、ウクライナ紛争では米国に頼らざるを得ないが、欧州アクターとしてその仲介役ともならねばならない。
「トランプ旋風」が治まるのをただ待つしかないのか
トランプ相互関税に見られたようにEUはトランプ第二次政権発足以来、マルチラテラルな準備をしてきた。中国・ブラジル・メキシコ・インドなど「グローバル・サウス」と呼ばれる諸国やカナダとの関係強化に努めた。
二期目のフォンデアライエン欧州委員長の最初の外遊地がインドであったことはその象徴的出来事だった。実際に7月下旬に日本とEUとの相互関税交渉はとりあえず、まとまったが、中国・インドを含むグローバル・サウス諸国との交渉の行く末はまだ見えない。
トランプ政権の独善的なアメリカ・ファースト政策が世界に動揺を与える中で欧州の立ち位置も揺らいでいる。ジレンマの真っただ中だ。
最も楽観的に言えば欧州は「トランプ旋風」がひと段落するのを待つしかない。それまで適度に事態の最悪化を避けるように米国に対応するしかないという一種諦めの境地なのかもしれない。一連の欧州の対トランプ宥和的姿勢の背景にあるものだ。
