2025年12月5日(金)

トランプ2.0

2025年8月26日

 米国のリンドン・B・ジョンソン大統領が1967年に「偉大なる社会」実現の一環としてスタートさせた公営ラジオ放送と公営テレビ放送が、皮肉にも「米国を再び偉大に」(MAGA)のスローガンを掲げたトランプ大統領の独断で閉鎖の危機に追い込まれている。良識派の多くの市民や団体から「アメリカの良心の終焉」に対する怒りと落胆の声が挙がっている。

(AP/アフロ)

米国に根付く民営化に向けた起業家精神

 米国には建国以来、他の国との比較においてもきわだった美徳がいくつかある。そのうちの一つが、「Do It Yourself」(DOIT)の伝統だろう。

 レストラン、ガソリン・スタンドなどでのセルフサービスが生まれ、多くの事業分野でも、公営、国営ではなく、できるだけ民営化に向けた起業家精神が育っていった。

 手紙や小包を届ける郵便事業でも、郵便公社に果敢に挑戦し、それまでほとんど不可能と思われていた「全米どこにでも翌日配達」を売り物に個人事業主による「フェデラル・エキスプレス」(FE)社が誕生したのは、1970年代後半だった。

 筆者はかつて、創業数年で全国展開し旋風を巻き起こしつつあった同社本社(南部テネシー州ナッシュビル)を訪ね、営業実態をつぶさに取材したことがある。

 広い敷地の一角に自前の管制塔と滑走路を構え、深夜にもかかわらず轟音を立てながら「FE」のマークの入った貨物機がつぎつぎに発着を繰り返していた。ビル屋内の広々とした「集配処理センター」では、作業員たちが夜を徹して各州から集まってきた膨大な量の手紙や小包をエリアごとにてきぱきと仕分けする姿を目の当たりにして、「翌日配達」への私企業ならでの意気込みに圧倒された。

 「わが“航空部隊”の保有機数は、DC10が10機、ボーイング727が30機、ファルコン・ジェットが12機、それでも間に合わなくなってきたので、近く新たに727を8機購入予定。そして地上配達用に大小トラック3000台以上を動員しています……」

 郵便公社に対するライバル心をむき出しにした同社広報部長の自信あふれる説明はよどみがなかった。

 もちろん、こうしたFE社の急成長の背景には、従来のマンネリ化した公社の郵便サービスに不満を募らせていた一般家庭の熱烈支持があったことは言うまでもない。

 実際、当時、広大な国土を持つ米国で、郵便物や小包を相手先がどこであれ翌日までに確実に届ける構想は、まさに革命的ともいえるものだった。私企業であるがゆえに実現できた事業である。

 しかし、国民生活のすべてのサービスを、利益最優先の企業に任せられるわけではもちろんない。とくに公共性が高く、一般市民にとって恩恵の多い文化的事業については、採算を度外視した政府の支援が不可欠となる。


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