2025年12月5日(金)

トランプ2.0

2025年8月26日

 同局の責任者は電子メディアを通じ「トランプ政権は、国家財政立て直しを叫ぶだけで、今回の予算カットで全米の遠隔地に住むどれだけ多くの市民が苦しめられることになるかを全く理解していない」と怒りをあらわにしている。

 放送関係ではトランプ氏はこれより先、長年にわたり自由民主主義を支える米国の価値観を世界に広めるのに貢献してきた公営ラジオ局「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」に対し、閉鎖命令を出し、海外駐在含め1500人近くの職員が解雇されたばかりだった。保守的体質をむき出しにするトランプ政権に対し、同局が終始、思想的に中立的立場を貫いてきたことが閉鎖措置の理由とされている。

 そして今回、海外放送局の閉鎖に続き国内放送でも、主張や立場の違いを理由に現政府による独断専行の荒療治となった。

歪められるトランプ1期目の歴史

 トランプ政権による放送関係のこれら二つの措置に共通するのは、「言論・出版の自由」を保障する憲法修正第一条を無視した、反対意見や見解に対する「寛容性」の欠如だろう。

 米国では伝統的に、意見や立場の相違にかかわらずその「レゾン・デートル」(存在価値)自体を受け入れる寛容さがあった。連邦上院で法案審議の際に、反対する野党議員に無制限に発言時間を与える「フィリバスター」の慣行が200年以上も続いているのも、寛容さ以外のなにものでもない。

 「寛容性」は「多様性」への理解にも通じる。個人的な見解の相違はあるにせよ、大学入学審査時における黒人などマイノリティ人種の優遇措置や、「LGBT」に代表される性的マイノリティに対する社会としての受容はまさにその表れでもある。

 首都ワシントンにある「ナショナルギャラリー美術館」「航空宇宙博物館」「米国歴史博物館」など入場料無料の公営文化施設は、いずれも毎日多くの観覧者たちで賑わっているが、どの施設の展示内容にも共通して言えるのは、「WASP (アングロサクソン系でプロテスタントの白人)」を中心とした白人のみならずマイノリティ人種の貢献にも公平に目配りしている点だ。

 ところが、トランプ氏は去る3月、「米国史における真実と健全の回復について」と題する大統領命令を発令。これら文化施設について「米国の価値観を汚し、人種問題で国民を分断している」として、バンス副大統領に対し、責任者の人事刷新や助成金カットを指示した。

 これを受けて、「米国歴史博物館」は去る7月、これまで館内の「米国歴代大統領の歴史コーナー」にあったトランプ大統領の「1期目の2度の弾劾」に言及した表示とラベルを急遽、取り外した。議会民主党指導者は「歴史を歪めるものだ」と反発する騒ぎとなっている。

 「真実は時として、立場を異にする相手側に存在する」――。かつて、上院院内総務として超党派的立場を貫き通し、その後民主、共和両政権で駐日大使を11年の長きにわたり務めたマイク・マンスフィールド氏が口癖のように語ってくれた至言を思い出す。

 しかし、今やアメリカでは、そうした他者への理解の精神は、かき消されつつあるかに見える。

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