この「変化」が疾患である。疾患は疾病とも呼ばれることがあり、その分類は一般に「疾病分類」と呼ばれる。
今回のトピックである頭痛にも疾病分類があり、頭痛に関連する診療でおそらく最も利用されているものが国際頭痛学会による『国際頭痛分類(International Classification of Headache Disorders; ICHD)』である。原書第1版の発表は1988年と比較的新しい。現在利用されているのは、2018年に発表された第3版で、日本頭痛学会による翻訳が『国際頭痛分類第3版(ICHD-3)日本語版』としてオンラインでも利用できる。ICHD-3に収載された頭痛の種類は、なんと300を超える。
ICHDの重要性は、頭痛を分類するための診断基準がICHDによって標準化されたことで、例えばそれまで世界の国や施設、研究者や医師でさまざまであった「片頭痛」の疾患概念が統一され、いわば同じ土俵で片頭痛の診療や研究が論じられるようになったことで示される。
一次性頭痛と二次性頭痛
ICHDでは頭痛をまず「一次性頭痛」と「二次性頭痛」とに大別している。
特定の疾患や外傷などの明確な原因がなく、頭痛そのものが主な症状として現れる頭痛は「一次性頭痛」と定義される。これには「片頭痛」「緊張型頭痛」「三叉神経・自律神経性頭痛」そして「その他の一次性頭痛」が分類されている。
頭痛そのものが疾患として扱われていることが特徴である。三叉神経・自律神経性頭痛には片側の目の奥やこめかみなどに激しい痛みが走って同じ側の結膜充血や流涙、鼻閉なども伴う群発頭痛が含まれる。
他方、「二次性頭痛」は他の疾患や状態が原因となって発生する頭痛だ。つまり、頭痛が単独で発生するのではなく、脳腫瘍、感染症、外傷、血管障害、物質またはその離脱、ホメオスターシス障害などの疾患が背景にあってそれらが頭痛を引き起こしている場合に「二次性頭痛」に分類される。
ホメオスターシスとは、「恒常性」とも呼ばれ、生物が内外の環境の変化にかかわらず体内の状態を一定に保とうとする機能のことである。ICHD-3では、ホメオスターシス障害として、低酸素、高炭酸ガス、透析、高血圧、甲状腺機能低下、絶食などによる頭痛を含めている。
頭痛へのアプローチ
頭痛を理解するための基盤となる事項の解説が長くなってしまったが、次に頭痛を訴える患者に対して家庭医が実際どう診療しているかをお話ししたい。
外来診療では、患者が訴えている症状がよくある一次性頭痛(片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛)で矛盾しないかを診断する。そのためには二次性頭痛を示唆する所見(「レッドフラッグ(危険信号)」と呼ぶ)がないかを問診と診察で評価していくことになる。
頭痛のレッドフラッグは数が多く、発熱などの全身症状、がんの既往、神経学的診察での異常所見、突然発症した頭痛、年齢50歳以上、頭痛のパターンの変化、体位による頭痛、くしゃみ・咳・運動での頭痛、眼底の異常所見、進行性の頭痛、妊娠・産褥期(さんじょくき、出産後から母体が妊娠前の状態に戻るまでの期間)、眼痛、外傷の既往、免疫異常、鎮痛剤の過剰使用などがある。
ちなみに、以前のこのシリーズの記事『「腰痛は忘れる前にやってくる」意外に多い腰の痛みと長い症状との付き合い、その要因と対処法、頭に入れておきたいリハビリテーションの重要性』で腰痛のレッドフラッグを記憶する語呂合わせ「TUNA FISH」を紹介したことがある。頭痛のレッドフラッグの語呂合わせもあることはあるが、「SNNOOP10」という「P」で始まる項目が10個もあるもので、とてもすべてを記憶に頼ることはできないと思うのは私だけではないだろう。
