2025年12月5日(金)

家庭医の日常

2025年8月31日

病気や症状、生活環境がそれぞれ異なる患者の相談に対し、患者の心身や生活すべてを診る家庭医がどのように診察して、健康を改善させていくか。患者とのやり取りを通じてその日常を伝える。 
(Liubomyr Vorona/gettyimages)

<本日の患者>
S.S.さん、40歳、男性、一級建築士。

 「先生、身体(からだ)は正直ですね。頭痛ダイアリーで頭痛予防にNGなことが続くとちゃんと痛くなります」

 「本当ですね。先月のこの時期は大変だったでしょう。でも、こうやって頭痛ダイアリーの記録を続けて身体の反応がわかってきたら、次からは効果的に予防にグッドな行動がとれますよ」

 「やっとと言うか、いよいよこれからですね」

 今回の診察で私たちは、S.S.さんが記録してきたここ2カ月分の「頭痛ダイアリー」を眺めながら、診察室でいわば「頭痛を鎮めるための作戦会議」をしているのだ。

 S.S.さんは、設計事務所に勤める一級建築士である。学校や美術館などの公共施設、そして街並み全体を設計するプロジェクトなどに関わってきている。

 それまでも軽い頭痛はよくあり、経験的にコーヒーを飲んで痛みを和らげたり、市販の鎮痛薬(アセトアミノフェン)を服用したりしていたが、10カ月前ぐらいから頭痛がひどくなって、半年前に私の働く家庭医診療所を受診した。

 その当時のS.S.さんの訴えは、「頭痛がひどい時は仕事にならない。何かボーッとした感じがして10分ぐらいで頭痛がひどくなり、1時間ぐらい痛みが続く。痛みの後、吐き気がして嘔吐したこともある。首から肩に重い痛みを感じることもある。目がチカチカして目の奥から額が締め付けられるように痛いこともある」と電子カルテに記録されている。

頭痛を分類するための診断基準

 古代ギリシアのヒポクラテスが示した急性・慢性・風土病・伝染病の分類、漢方医学の病期による六経分類(太陽病、少陽病、陽明病、太陰病、少陰病、厥陰病)の例を挙げるまでもなく、古今東西、人間は様々な必要性からいろいろなやり方で疾患を分類してきた。

 人の心身に起こった「変化」に名前をつけ、それを系統的に分類することは何かと便利である。その人が経験した「変化」の原因を探る、その「変化」がこれからどう経過するかを予測する、その「変化」への対処法を検討する、その「変化」が起きないような対策を考える、そしてそもそも、その「変化」が起こっているのかいないのかを知る方法を見つけたい──。このような時に、できるだけ正確な分類が必要とされてきた。


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