もし香港の統計が正しいとすると、香港から日本が輸入できる稚ウナギはアメリカウナギなどの異種ウナギがほとんどもしくは全て、ということになってしまう。ところが現在国内で養殖されているウナギはそのほとんどがニホンウナギであり、アメリカウナギはほぼないと考えられている。中央大学の白石広美研究員らが日本の小売店で販売されていたウナギ蒲焼き51サンプルをDNA検査したところ、全てニホンウナギだったとの研究結果(Shiraishi, Han, and Kaifu, 2025) からも、このことが裏付けられている。
では、香港から輸入されるニホンウナギの稚魚はどこが原産地となっているのか。その元を辿ると、相当部分は台湾からの密輸であると推測されている。台湾は07年から稚ウナギが養殖用として漁獲される11月~3月の間、その輸出を禁止している。これに代わって一旦台湾から香港に密輸され、香港から合法的な体裁で日本に再輸出されているのである。
「現在、輸入シラス(=稚ウナギ)は、台湾産、中国産のものが香港を経由して日本へ輸入されているが、台湾はそもそも輸出できないものを香港経由で日本などへ輸出していることは事実」と養鰻団体「持続的養鰻機構」の代表が語っている通り(水産経済新聞2021年6月28日)、日本のウナギ関係者で台湾から香港を経由した「稚ウナギ密輸三角貿易」の存在を知らない者は皆無であると言って良い。ただし、密輸由来であることから公式のデータには現れることはなく、その実態は闇に包まれている。
官業総力を挙げてワシントン条約掲載へ抵抗
不透明や取引にまみれたウナギに対し、ついに国際社会が動いた。この25年11月末から開催されるワシントン条約締約国会議で、欧州連合(EU)、ホンジュラス、およびパナマがウナギ全種をこの条約の附属書Ⅱに掲載する提案を上程したのである。
ワシントン条約はその正式名称(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)から、「絶滅危惧種を規制するもの」とのイメージを持たれる場合が少なくない。実際、絶滅危惧種については「附属書Ⅰ」というリストに掲載し、商業目的での輸出入は禁止される。
その一方、今回ウナギについてその掲載が提案された「附属書Ⅱ」というものは、(a)現在必ずしも絶滅のおそれはないが、その取引を厳重に規制しなければ絶滅のおそれのある種、あるいは、(b)こうした種と税関などの段階で判別がつかないなどの理由から、一緒に規制すべき種(条約第2条2項)の掲載が想定されている。
附属書Ⅱに掲載されても、商業的な輸出入は問題なくできる。ただし、掲載種の輸出に際しては、①輸出しても当該種の存続を脅かすことにはならないとの認定、②輸出される動植物は自国の法令に違反して入手されたものでないとの認定、を行った上で輸出国側が発給する輸出許可書が必要となる(第4条2項)。ニホンウナギについては、少なくとも現段階では、個々の輸出によって直ちにその存続が脅かされるということは考えにくい。したがって、合法に入手されたものであれば、問題なく輸出入が可能なはずである。
