〝Netflix俳優〟たちによるバンドの結成
世界の人が今、日本を代表する俳優として思い浮かべるとしたら、佐藤健はそのひとりだろう。宇多田ヒカルの楽曲『First Love』にインスパイヤ―されて制作された、同名のNetflix作品は、高校時代から育んだ、佐藤健と満島ひかりの初恋がさまざまな障害、とくに満島の記憶喪失によって断絶される中で結ばれるラストは切ない愛を描いた。
新作の『グラスハート』は、佐藤健が主役と共同エグゼクティブプロデューサーを兼務している。孤独な天才音楽家として知られている藤谷直季(佐藤)が、雨で中止になったロックコンサートにバンドをクビになった、ドラマーの西条朱音(さいじょう・あかね、宮﨑優)が勝手に舞台前にドラムをセットして演奏し始めたとき、舞台のピアノを弾いて西条とのセッションになる。
土砂降りの雨のなかで、藤谷は体の中から音があふれる感覚に襲われて、バンドを組んでみることになる。実際に藤谷が楽曲を担当するバンド『TENBLANK』が誕生する、3年前のことだった。
実は、ギタリストの高岡尚(町田啓太)にその2年前、街角で外国人とキーボードを一緒に演奏していたところ、バンド作りを誘われていた。しかし、その時は他人とかかわるのが嫌なのを理由にして断っていた。
藤谷(佐藤)は、まず高岡(町田)を彼のために作った曲を聞かせて説得する。「ひとりのギタリストのために作曲したのは初めてなんだ」。高岡は「天才作曲家なんだから、バンドを組むといえば誰でも加わるさ」と。「それがね、僕とバンドをやろうって誘ってくれたのは君が初めてなんだ」。
高岡のつてで、キーボードと編曲をする坂本一至(志尊淳)が加わって骨格ができた。ドラマーの朱音(宮﨑)はその後もバンドのオーディションを落ち続けた。母が営むロックなどのレコードを聴かせるカレー屋の配達をしながら、音楽大学に通っている。バンドに入る夢はほとんど諦めていた。
ある日、配達に行くとドアに「西条朱音さん 事情があるので中に入ってください」というメモが貼ってあった。名前が知られているので不信に思って、いったんは帰りかけた朱音はドアを開けて中へ。そこには、朱音が音楽を通じて知っている、天才の藤谷と人気ギタリストの高岡、そして坂本が作曲に取り組んでいた。ドラムの旋律をどうするか、で議論が起きているなかで、朱音は「私ならこうです」とドラムをたたいてみせた。
藤谷は、どしゃぶりの雨のなかでドラムをたたいて、ピアノでセッションした朱音を探していたのだった。
