2025年12月6日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年9月10日

 一方、アジア自身の安全保障上のジレンマは、さらに深刻化するばかりだ。この地域における中国の力は、欧州におけるロシアの力をはるかに凌駕している。欧州の端に位置するロシアと異なり、中国はアジアの中心に位置し、多くの国々と長い国境線と戦略的な海域を共有している。

 ウクライナにおいて武力による国境変更を禁じる規範が揺らいでいることは、中国を勢いづかせる可能性がある。もしロシアが、何の責任も負うことなく領土獲得のための武力行使を許され、さらに領土まで与えられることになれば、中国の近隣諸国は海上で中国が同様の戦術をとることを恐れるだろう。台湾は、特に危険に直面している。

 米露関係の改善は、インドにとり戦略的な救済にならない。ワシントンは、インドのロシアからの原油輸入を標的にしながら、もう一つの主要輸入国である中国には手を出さない。トランプは、二大国との関係再構築を優先する中で、アジア全域の同盟国やパートナーを軽視するリスクを冒している。

 二国間あるいは非公式のミニラテラル形式で活動するアジアの同盟国は、NATOや欧州連合(EU)といった制度的緩衝材の恩恵を受けている欧州とは異なり、はるかに米国の政策変更の影響を受け易くなっている。

 トランプのウクライナ戦略は、彼の「アメリカ第一主義」の世界観の本質を浮き彫りにするものだ。同盟関係や安全保障上の利益は脇に追いやられ、経済ナショナリズムが優先されている。ウクライナ問題におけるプーチンとの外交は、同盟国の安全保障上の懸念さえも、トランプの中露両国との安定的な関係構築というビジョンと衝突すれば犠牲になる可能性があることを示唆している。

 アジアの同盟国にとって、米国のコミットメントが不確実かつ不安定になり、地域の安全保障の負担が自らの肩にさらに重くのしかかる将来に備える必要があるかもしれない。

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重要な2つの視点

 上記の論説においてモハン氏は、ウクライナ戦争への対処振りについて、西側と一緒になってウクライナ支援や対露制裁等を行ってきた日本と、これに参加せず中立的立場を維持してきたインドや中国などアジア諸国を比較して、ロシアに同調するトランプの登場という今日の状況を見れば、日本の判断は誤っていた、インドなどの方が先見の明があったように見える、と述べている。


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