2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年9月3日

 2025年8月11日付のワシントン・ポスト紙は、トランプの対印関税は何十年にわたる米印関係強化の時代の終わりをもたらす危険をはらんでいるとする記事を掲載している。

(Marina Novitkaia/bin kontan/gettyimages・AP/アフロ)

 インドのモディ首相は2月にトランプ大統領と会談した。両者は、今後蜜月の米印関係を発展させていくのではないかと思われた。しかし、そうではないようだ。

 7月30日、米印貿易交渉が膠着する中、トランプはインドからの輸入品に25%の関税を課すと投稿した。そのわずか8時間後、トランプはインドを刺激するかのように、パキスタンとの貿易合意を発表した。しかも関税率は、19%と低かった。

 そこから緊張は高まった。トランプは、8月4日にはインドへの関税をさらに「大幅に」引き上げると警告した。8月6日、関税は50%になった。これは最も高いトランプ関税の1つだ。

 この急転直下の理由は何か。トランプのSNSを額面通りに受け取るなら、この関税はインドのロシア産原油購入を罰するものだ。しかし、トランプは、インド以上にロシア産原油や石油製品を購入している中国には、インドへの懲罰関税が発表される前日に、貿易交渉の延長を認めた。さらにロシアには、優遇的な10%の関税率を適用した。

 個人的な恨みの可能性もある。トランプは、5月の印パ衝突の後にインドが停戦仲介でのトランプの役割を認めなかったことに不快感を抱いた。ノーベル平和賞を狙うトランプは、印パ衝突の終結をその受賞理由の一つとして挙げていた。

 米国の要求の一つは、インド市場を米国産農産物と乳製品に開放することだ。しかしモディにとり農業と酪農は“禁断の領域”だ。

 この二つの分野の貿易障壁を緩和すれば、次の選挙で敗ける。農民(インドの労働力の約45%)は、モディが率いるインド人民党にとっては極めて重要な支持層だ。米国の乳製品(牛脂など動物由来の餌を与えた牛からの乳を含む可能性がある)の輸入には、人口の8割を占めるヒンドゥー教徒が文化的理由で反対している。

 米印の緊密な関係は、持ちこたえられないかもしれない。インドは今でも非同盟の精神に忠実だ。米・日・豪と「QUAD(4ヵ国枠組)」に属しながら、中国を含む「BRICS」にも属している。

 しかし2008年の米印原子力協力協定締結後、米国はインドを従来の親ロシア姿勢から引き離し、米国寄りに導いてきた。対中対処協力のために、米国は経済と防衛を切り離し、保護主義や知財の問題がハイテク防衛装備の売却や防衛情報の共有の邪魔にならないようにしてきた。


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