陸上風力を取り巻く状況を踏まえ、フランスは大西洋沿岸地域を中心に、洋上風力の導入を本格化させている。また地中海沖では初の浮体式の洋上風力事業も進めており、洋上風力全体の発電設備容量は25年6月時点で1.7GWに到達した。
フランス政府は、25~35年のエネルギー政策の指針である「第3次エネルギー複数年計画(PPE3)」の草案(25年3月提出)において、洋上風力の規模を30年に3.6GW(発電量換算で14TWh)、35年に18GW(71TWh)へと大幅に拡充する方針を示している。また陸上風力についても、35年までに40GW(91TWh)以上に引き上げる計画であり、風力発電全体で将来的にフランスの総発電量の約25%を賄うことを想定している。
エネルギー安全保障の観点から国家が関与
風力発電の増設はフランスにとって、エネルギー安全保障の観点からも重要性を帯びている。フランスにおけるエネルギー安全保障は、国是として掲げる「戦略的自律性」と密接に関連した概念である。
戦略的自律性とは主に、外交や安全保障に加え、エネルギーや産業技術といった広範な分野で、他国への依存を最小限に抑え、主権的に意思決定を行うことができる能力を指す。
この点、風力発電の拡大は電力供給面で化石燃料輸入への依存を低減し、供給途絶や資源価格の高騰、資源国の政情不安などに起因する地政学的リスクの緩和にもつながる。
このため、国家主導の下で、風力発電プロジェクトに関する系統整備、ゾーニング(開発区域の指定)、港湾インフラの強化、入札制度の設計・運用が一体的に進められている。国家が主導権を握り、風力発電を戦略的資源として管理・統制することで、エネルギー安全保障への貢献を図っている。
特に財政面では、電力価格に関する差額決済契約(CfD)を通じて、洋上風力事業への支援が行われている。この制度では、電力市場価格が一定の基準価格を下回る場合には国家が開発事業者に対して差額を補填し、逆に市場価格が基準価格を上回る場合には、開発事業者が超過分を国家に返還する仕組みとなっている。同制度では、インフレ率や金利変動といった経済情勢を反映した価格指標への連動(インデックス化)も体系的に導入されている。
加えて、国家は送電網への接続支援も担っており、これらの送電設備はフランスの送電系統運営会社RTEが所有・運用している。こうした制度的・財政的・インフラ的支援の統合により、フランスは洋上風力を国家戦略の中核に据える体制を整えている。

