2025年12月5日(金)

World Energy Watch

2025年9月10日

 もちろん、フランスの洋上風力事業にも課題はある。初期の3案件は、いずれも長期の遅延とコスト超過に直面した。エネルギー経済・財務研究所(IEEFA)の報告書によれば、1MWあたりの資本コストは300万〜500万ユーロとされ、英国やデンマークといった洋上風力先進国に比べて高水準である。この要因としては、規模の経済(スケールメリット)の未達成や、国内サプライチェーンの整備の遅れが指摘されている。

日本への視座

 このように、フランスがエネルギー安全保障の観点から推進する洋上風力の取り組みは、日本のエネルギー政策にも重要な視座を提供する。現在、日本の原子力発電はフランスと比べてもさらに厳しい状況にある。11年3月の福島第一原発事故以降、多くの既存炉が再稼働に至らず、約16GW相当が廃炉となった。

 また既存炉の老朽化問題も深刻化しており、既存炉の3分の1ほど(全34基のうち13基)が70年代と80年代に建設され、運転開始から約40年が経過している。こうした中、日本では新たな原子炉の建設は進まず、停止中の原子炉の再稼働すら実現していないのが現状である。

 このような状況下、クリーンエネルギーとして期待を集めていた洋上風力事業にも不透明感が漂い始めている。採算性を理由に事業から撤退した企業側にも一定の責任があるが、政府による制度設計の妥当性や関与のあり方についても、同様に検証が求められる。

 日本では電力の安定供給に加え、化石燃料の国外調達においても、競争の自由化という枠組みの下で、民間の主体性が重視される傾向がある。こうした民間任せの方針は一定の効率性をもたらす反面、政策に対する政治(政治家)や行政(官僚機構)の関与がやや限定的になっている側面も否めない。

 その結果、国家戦略としての一貫性や中長期的な方向性の欠如が生じやすいという問題が顕在化しやすくなっている。三菱商事の撤退に対し武藤容治経済産業相が「撤退は日本の洋上風力に遅れをもたらす。非常に遺憾だ」とコメントしたのもその一端が見える。

 一方、フランスでは、主要なエネルギー企業であるフランス電力(EDF)やオラノ(Orano)が国家の直接的な管理下に置かれ、トタルエナジーズ(TotalEnergies)においても、外務省や他の国家機関の出身者が取締役、監査役、顧問等として経営に関与している。これは、エネルギー産業を国家主権の延長線上にある戦略的分野とみなし、政府が制度設計と人事配置の両面から政策の方向性を統制・誘導するという、フランス的「国家資本主義」モデルの特徴を示すものである。

 以上のように、日本とフランスではエネルギー政策に対する国家の関与の在り方がやや対照的で、それぞれに固有の強みと課題が見受けられる。今後、安定的なエネルギー供給体制を確立するためには、民間との協調を図りつつも、政治と行政が政策の方向性を明確にし、その着実な実行を支える制度と体制を整備していくことが益々必要となるだろう。

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