貿易の合意に達したかと問われたトランプは、「昨日会って解決した。新たな合意はしなかった。同じ合意を維持したままだ。李大統領はそれを受け容れた」と述べた。韓国のコメや牛肉市場のさらなる開放やアラスカのガス田開発に係る相違も埋められなかった。
今回の首脳会談は共同声明や宣言を出さずに終了した。重要課題に合意がないことを示す。対照的に、日本、インド、イタリアはいずれもトランプとの会談後に共同声明を発表した。外交・貿易の枠組みには通常は拘束力のある文書がある。こうした文書がなければ、トランプの行き当たりばったりの発言により再び不確実性が増幅しかねない。
それでも、首脳会談は直近の懸念を和らげ、同盟強化への第一歩を記した点で重要だった。しかし拘束力のある約束がない以上、今後の協議で米の優先事項を反映した「本当の請求書(要求)」が出てくる可能性が高い。政府関係者は、真の交渉はこれから始まる、韓国はその備えを整えなければならないと言う。
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無事に終わったことが最大の意義
韓国経済の先行きが不透明になる中、韓国は米韓首脳会談が2月のゼレンスキー・トランプ会談の惨事のようにならなかったことに何よりも安堵しているだろう。韓国大統領報道官は「敢えて言うなら成功的な首脳会談」と評した。
トランプから新たな難題を突き付けられることもなかったようだ。8月25日の会談の直前にはトランプの韓国批判で不穏な気配が漂った。それに対処するため外相の趙顕が急遽、李在明の訪日への同行を止め、訪米した。
会談数時間前にはトランプがSNSに投稿、「韓国ではまるで粛清か革命が起きているようだ。そのような状況ではビジネスはできない」と批判した。緊張の舞台裏は何だったのか、よく分からない。
韓国は原子力協定の改定推進や自動車関税引き上げ幅の日欧均一化等の重要課題を正面からトランプに求めようとして、米側を怒らせたのかもしれない。そのため、原子力協定改定や在韓米軍再定義、対中、台湾問題等の難問は先送りし、個人的関係の樹立や10月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)慶州首脳会議へのトランプ出席の確保、トランプへの「お世辞作戦」に徹することにしたのかもしれない。会談でトランプも、在韓米軍の縮小については「それは今は言いたくない」と避けた。
首脳会談では、李在明は思い切りお世辞を言い、トランプは上機嫌だった。李在明はトランプを「偉大なピースメーカー」、自分は「ペースメーカー」になる、「北朝鮮問題を解決できる唯一の人物はトランプ大統領だ」と言い、北朝鮮との仲介をトランプに求め、金正恩に会うよう求めた。さらに北朝鮮にトランプタワーとゴルフ場を作り、そこで金正恩とプレーしたらどうかとも述べた。
これでトランプは一挙に高揚。トランプは記者団の質問に「(金正恩とは)今年会いたい」と述べた。
両首脳は慶州APEC首脳会議の機会の会談も排除しないような雰囲気だったが、トランプがそのような調子で金正恩との会談に乗り出すことのリスクは大きい。
世界も、もうそろそろトランプへのお世辞戦略はほどほどにすべきだろう。文在寅・元大統領による無定見な対米誘導とトランプ第一期の米朝会談を繰り返してはならない。
