韓国の李在明大統領が8月23日に来日し、石破茂首相と会談した。共同プレスリリースで「日韓関係を未来志向で、安定的に、大きく発展させていくことで一致した」ように、これまでにない日韓関係の滑り出しとなったことは歓迎される。
日韓メディアは、これを李大統領が掲げる「実用主義」の発露と見ているようだが、果たしてそうか。筆者は、韓国が軍事力を活用して国際社会での立場を高めたことに起因する「余裕」ではないかと考える。
新記録達成から情報戦まで異例づくし
李大統領と石破首相の首脳会談は、異例づくしだった。
まず、8月の来日、米国より前の来日という点で、初めての大統領になる。日本からの解放を祝う光復節がある8月はナショナリズムが最高潮に達する時期で、そこでの来日はリスクでしかなく、これまで8月に来日した大統領はいなかった。
また韓国大統領の公式来日は1984年の全斗煥大統領に遡るが、過去9人の大統領のうち7人は最初の訪問国として米国を選んだ。李大統領の初外遊は主要7カ国首脳会議(G7サミット)出席のためのカナダ訪問だったので、2国間外交の相手として初めて日本を選んだ大統領になる。
次に、就任からわずか80日での来日は、歴代大統領の初来日までの期間で2番目の早さになる。最も早く来日したのは、幼少期を日本で過ごし、日韓関係の改善を模索していた李明博氏だった。同じく日韓関係の改善を目指した尹錫悦氏でも初来日に310日もかかっていることから、80日という期間がいかに異例かがわかるだろう。
そして最後は、日本メディアへの「宣撫工作」だ。李大統領は日本メディアの事前インタビューに積極的に応じ、日韓関係について言葉を弾ませた。
日本メディアは首脳会談前からその言葉を競って報じたので、会談はほぼ出来レースで終わった感が拭えない。言い換えると、李大統領が情報を使って会談を制したのだ。
余談だが、日本メディアは各社が個別にインタビューを要請したというが、これはHUMINT(人的情報活動)のセオリーに照らせば0点だ。一人の情報源に複数の担当官がアクセスすると、情報源に情報が集まったり、担当官同士の競争心が煽られたりして、情報源が担当官を操るという本末転倒に陥ってしまう。
