24年版でベトナムは全133カ国・地域中44位で、ASEAN10カ国のなかでは、シンガポール(4位)、マレーシア(33位)、タイ(41位)に次いで高く、所得水準でみた国・地域別区分で上位中所得国とされているインドネシア(54位)よりも上位に位置している。また、ベトナムが属する低位中所得国のなかでは、インド(全体順位は39位)に次いで2位となっている。
WIPOが24年版のレポートにおいて13年以降で最もランクを向上させた中所得国のひとつと言及しているように、ベトナムの技術革新は発展段階からみれば比較的良好といえる状況にある。ただし、課題が全くないわけではない。同レポートによれば人的資本での弱さが目立つ。例えば、中等教育においては教師の数がまだまだ不足している。また、高等教育においては海外からの留学生数が少ないことが指摘されている。
こうしたなかでベトナム政府も自国の課題について認識し始めている。例えば、「2021-25年の社会経済開発計画」では、国内都市と地方の連携強化について言及し、具体的にはNorthern Midlands and Mountain AreasとRed River Delta、特にハノイ首都圏を結ぶインフラ投資や、Central HighlandとSouth East、Mekong Deltaとの交通ネットワークの向上に注力するとしている。また、25年2月の農村開発に関する政府主催のワーキングショップでは、次期5カ年計画にむけて農村地域のインフラ開発だけでなく、教育やデジタル化の必要性についても議論されている。
また、自国発の技術革新を進める観点では、24年12月の政治局決議57号で、30年までの近代的工業を有する上位中所得国入り、45年までの先進国入りに向けた科学技術に関する戦略的なビジョンを示した。そして、25年1月に次はそのビジョンを実現するための行動計画を決議し、そのなかで科学技術、イノベーション、デジタルトランスフォーメーションをけん引する人材を国家主導で育成することを掲げている。
不可欠な日本本社のマインドセットのアップデート
これまでベトナム経済が順調な成長を続けてきたことは間違いない。しかし、ベトナムが今後も発展を続けて行くには、足元の外部環境の変化を奇貨として、これまでの成長モデルを修正していかなければならない。ベトナム政府は修正へ向けた課題を認識し対策を講じつつあるが、マレーシアやタイなど先発国において成長モデルの転換には多くの困難が伴っていることを踏まえれば、ベトナムにおいても決して容易な問題ではないと考えられる。
そうしたなかで、日本企業が今後もベトナムの成長を取り込んでいきたいのであれば、重要になってくるのが日本本社のマインドセットである。日本本社の描くベトナムは、まだまだ「安価で豊富な労働力」「購買力の高い豊富な若年層」といったステレオタイプを完全に脱却できていないケースが多いように思われる。途上国の成長を取り込もうという戦略にもかかわらず、途上国は途上国のままであるという矛盾する前提が置かれているとも言い換えられよう。
途上国が発展してくれば、その国の今後の成長を左右する課題も変化する。そして、その課題を一つずつクリアできているかは、発展段階があがるほど、丁寧につぶさにその国の状況をみなければみえてこない。ベトナムの成長モデルの修正に合わせて、日本企業もベトナム戦略をアップデートし、修正状況に応じたビジネスチャンスを取り込むことが求められている。
