トランプ政権とサプライチェーンの再構築
第2次トランプ政権の発足下、各国の保護主義色は一段と濃くなり「デリスキング」を試みるグローバル貿易の流れは益々強まっている。同時に、AI(人工知能)革命が急速に広がり、エネルギー需要が従来想定以上に増加する見通しが強まる中、持続的なデジタル成長を下支えするために、急増するデータセンターのエネルギー転換をいかに迅速に行っていくかとの課題も浮上してきた。
急増するASEANのデータセンター向け電力需要
国際エネルギー機関(IEA)は「エネルギーとAI」(2025年4月)(以下翻訳は筆者による)で、世界のデータセンターの電力消費量は2030年までに945 TWhと2024年の約2倍に増加するとの予測を示した(ベースケース)。2030年にかけた電力消費量は約15%のペースで増加し、他のすべての産業部門の電力消費量の増加率の約4倍の速さで増加する見通しだ。
さらに2035年にかけて見通すと、AIの利用が本格的に拡大した場合(Lift-Off)は2035年に1700TWhとベースケースより45%多くなる一方、AIの普及が穏やかな場合(Headwinds)は700TWhにとどまると試算。ベースケースと同程度のAI拡大シナリオながらもエネルギー効率が改善された場合(Hight Efficiency)は970TWhと2割程度抑制される見通しだ。
特に顕著なのが、東南アジアである。シンガポールとマレーシア南部(ジョホール州)にはデータセンターハブが存在しており、データセンターの電力需要は2030年までに2倍以上になる見通しだ。背景には、東南アジアのデジタル経済の急成長があり、「ASEANデジタル経済枠組み協定(DEFA)」を追い風に2030年には2兆ドルに倍増すると見込まれている。(世界経済フォーラム 最終更新日2025年6月2日)。“2024 Annual Work Trend Index from Microsoft and LinkedIn”によると、東南アジアのナレッジワーカーの88%がすでに生成AIを活用。急速なデジタル経済の進展と相まって個人の月間データ使用量は2019年と比較して2025年までに3倍以上になると予測されている。
東南アジアへの投資を加速させるビックテック
2024年にはすでにビックテックが相次ぎ東南アジアへの投資強化方針を打ち出している。検索・広告・クラウドの世界的リーダーであるGoogleはASEAN地域全体に数十億ドル規模で投資する計画で、データおよびクラウドインフラの強化と、AI活用スキルを持つ人材の育成(数百万人規模)が焦点だ。マレーシアとタイでの新プロジェクトが目玉で、シンガポールではインフラとサービスの強化も計画されている。IT・クラウド大手のMicrosoftはタイ、インドネシア、マレーシアへの数十億ドル規模の投資を発表し、2025年までにASEAN地域で250万人にAIスキル習得の機会を提供していく。
クラウド大手のAmazon Web Services (AWS)の投資規模はさらに大きく、タイとマレーシアだけでも110億ドル規模のクラウドインフラとAIサービスへの長期投資が表明された。シンガポールのGovernment Technology Agency(GovTech)やインドネシア教育文化省、Petronas、Globe Telecom、Grabなど、地域内の数千の顧客と連携してデジタルサービスの変革を進めている。
例えば、シンガポール政府のデジタルサービスを担う機関であるGovTechはAWSと連携して生成AIプラットフォーム「MAESTRO」を構築。AWSの提供ツールを活用し、政府機関向けに最適化された生成AIを提供している。20以上の政府機関が導入し、300人以上のデータサイエンティストが活用。シンガポールの労働省は膨大な雇用関連文書を処理するAIツールを開発し、洞察を抽出する能力が60%向上し、分析に必要な時間が50%短縮できるなどの成果が出ている。
マレーシア国営石油企業Petronasは、AWSと連携して脱炭素・イノベーションを推進するスタートアップ支援プログラム「PETRONAS FutureTech 4.0×AWS Startup Innovation Challenge」を主催し、日本発スタートアップ「アスエネ」がCO2排出量の可視化・削減クラウド「ASUENE」でグランプリ受賞した。同社は温室効果ガス排出量のScope1〜3をAIで可視化し、企業のサステナビリティ経営を支援している。Scope1は企業活動から直接出る排出、Scope2は間接排出(エネルギー由来)、Scope3はその他の間接排出(バリューチェーン全体)と出所で区分される。

