ASEANの脱炭素支援と資金調達
英エネルギーシンクタンクのエンバー「AIを中心としたASEANのデジタル成長とエネルギー移行目標の整合性」(2025年5月)によると、世界のデータセンターの約45%が現在は米国に存在するが、2028年までにアジア太平洋地域が世界総容量の34%を占め、そのパイプラインの51%をASEANが占めると予想されている。
ASEAN主要6カ国(インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)合計で2.9GWのプロジェクトがパイプライン上にあるものの、大部分の電力網は化石燃料に依存しており、電力部門の脱炭素化が進まなければ、温室効果ガスの排出量はさらに増加する恐れがあると指摘されている。データセンターへの再エネ導入やエネルギー効率化が不可欠となろう。ベトナムを除く5カ国では、2030年までに電力需要の20-30%がデータセンター向けになり、中でもマレーシアでは2030年には68TWhと2024年の9TWhから増加し、最大で全体の30%を占める見通しだ。
2025年のASEAN議長国であるマレーシアで2025年5月、ASEANの脱炭素への移行を資金面から支援することを目的とした「Financing Zero Summit」が開催された。各国政府はカーボンニュートラルの達成について、2050年(マレーシア、シンガポール、ベトナム、ブルネイ、カンボジア、ラオス)、2060年(インドネシア)、2065年(タイ)の目標を掲げており、そのゴールに向けて2兆4,000億ドル規模の投資機会があると推計されている。公的資金だけでなく、民間資本の活用も併せて推進していく。
地域ハブとしてのシンガポールとマレーシア
データセンターの持続可能なフレームワークの構築にあたっては、シンガポールとマレーシアが先行し、これにドラフト作成段階にあるインドネシアが続いている。シンガポールは2023年6月発表の「デジタルコネクティビティ基本計画」をベースに「Green Data Center Roadmap」を策定し、デジタル経済の拡大と環境負荷の低減の両立を目指している。データセンターの環境性能基準を刷新させた「BCA-IMDA Green Mark for Data Centers 2024」および省エネIT機器へのアップグレードを加速できるように支援する補助金制度「Energy Efficiency Grant」、データセンターIT機器のエネルギー効率に関するシンガポール標準の設定などを進めている。
マレーシアはAI国家戦略として2024年、同国を世界的な半導体製造・設計拠点に育成することを目指す「国家半導体戦略(NSS)」を発表。2025年3月には英アーム・ホールディングとの提携が発表された。さらに、マレーシア最大の発電事業者YTLはエヌビディアと協業で総投資額100億リンギ(約3,500億円)をかけてグリーンエネルギーを利用したAIインフラ開発を進めていく。
また、「持続可能なデータセンター開発ガイドライン(Guideline for Sustainable Development of Data Centres)」を策定し、エネルギー効率、冷却技術、再生可能エネルギーの活用、廃熱管理などを含む包括的な基準を設定。マレーシア投資開発庁の監督の下、投資誘致と環境配慮の両立を図っている。データセンターやAIプロジェクト向けに迅速な電力供給ルート(Green Lane)を提供する「Green Lane Pathway」および再エネやEV充電などに最大100%の税額控除を受けられる「Green Investment Tax Allowance」などのインセンティブも設定している。
マレーシアのジョホール州は国土面積に制限があるシンガポールに隣接しており、高い電力予備容量と豊富な水資源を有している。ASEAN地域における大規模なデータセンターハブの役割が期待されよう。

