2025年12月6日(土)

つくりびととの談い

2025年9月21日

私生活でもものづくり
その〝生き生き〟のワケ

 内田さんに、浜野製作所の本社板金工場を案内してもらった。

 板物を切り、曲げ、磨く機械がズラリと並んでいる。内田さんはその全てを実際に使うことができる。

高出力レーザーで金属板を切断している。切断する材質ごとにレーザー加工機械を使い分ける
切断した金属板を大型の紙やすりにかける。加工した際に出っ張ってしまった「バリ」を取る

 「設計者は知識があるだけではなくて、自分でつくれなければダメなんです。そうじゃないと、現場とコミュニケーションが取れませんから」

 単に知識があるだけでなく、知識を使って自らつくれるようになること。内田さんは、そうすることで知識は「手の知識」に変わるのだと言った。

 ちょっとかっこいい。

金属を曲げていく。金属が元の形に戻る「スプリングバック」が起こるため、調整が難しいという
金属板を挟む金型の力加減をフットペダルで調整、左手で微調整。金属板のパーツが完成した

 毎週月曜日、内田さんはパンを焼くことを習慣にしている。

 「バゲットにクープ(切り込み)を入れるだけでも、学びがあります」

 クープナイフという専用の道具があるが、内田さんが使うのは100円均一の店で売っているカミソリだ。角度や引き方を工夫すれば、十分にクープを入れることができるという。

 内田さんの話を聞くうちに、フランスの文化人類学者、レヴィ=ストロースの『野生の思考』(大橋保夫訳、みすず書房)に出てくる言葉が思い浮かんだ。彼は、あり合わせの材料で目的を達することを「器用仕事」と呼び、設計や論理に基づいた材料を使って目的を達成することを「栽培された思考」と呼んだ。

 器用仕事には創造性と機知が必要だが、栽培された思考にそれは必要ない。内田さんが並外れて生き生きしているのは、彼が仕事でも趣味でも、あらゆる場面で器用仕事を実践しているからではないだろうか。「手の知識」と『野生の思考』。内田さんは、野生の知識を持っている。

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Wedge 2025年10月号より
コメと日本人
コメと日本人

「令和の米騒動」─。米価高騰、コメ不足の原因は複数あるが、ここまで騒ぎが大きくなった背景には、稲作に対する、長年の国民の無関心もあるのではないか。稲作の未来を経済的に考えれば、スマート化、大規模化一択なのだろう。しかし、それによって地域の担い手や環境保全は誰が行ってゆくのかの議論は乏しい。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」で、米価が下がれば関心をなくすのではなく、日本の稲作の未来をどうするのか、時間をかけて考え、耕していく必要がある。


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