その他にも、今回の日印首脳会談では、多くのことが決まったが、それらは中国対策にかかわるものが多かった。「日印安全保障協力に関する共同宣言」の改定をはじめ、半導体やレアアースの供給などの経済安全保障、量子コンピューターやAI、宇宙などの技術協力、今後10年で10兆円の投資、そして、人的交流が弱いことから、5年間で50万人の人的交流などで合意した。中国が行うレアアースなどの輸出規制、急速な技術開発、日中に比べ弱い日印の人的交流などへの対抗措置である。
会談のあった8月末まで駐日インド大使を担っていたシビ・ジョージ氏も、はっきりとした物言いで中国に厳しく、日本で人気がある大使であった。成果を上げた要因になったものと思われる。
中国との関係がもたらす潜在性と限界
このように日印首脳会談での合意を見れば、インドが中国陣営に加わっていないことは明確である。ただ、そもそも、インドの中国への接近はかなり限界があると言わざるを得ない。それはインドと中国は、印中国境とインド洋で対決しているからだ。
1つは印中国境だ。昨年10月以降、印中国境では、緊張が徐々に収まっているように見える。ただ、これは長期的に見ると安心材料とは言えない。
そもそも、中国は、昨年のアメリカの大統領選挙でトランプ大統領が勝ちそうだ、との観測が広がって以降、インドやベトナムとの緊張を緩和しようと動いてきた。つまり、アメリカ対策に集中したいので、他の国々とは緊張緩和をした、という構図である。
そこから考えると、印中国境での緊張緩和は、一時的なものになる可能性が高い。実際、印中国境における中国側の侵入事件は、11年の213回から一貫して上がり、19年には663回になり、20年には実際に大規模侵入事件と衝突事件が起きて、インド側だけで死傷者96人(中国側の死傷者は不明)という大きな事件となった。つまり、侵入事件の増加は、長期的な傾向で、今後、再び増加に転じる可能性が高い。
第二に、中国のインド洋進出がある。中国は、北京、上海といった中国沿岸部の諸都市の発展を持続させることに力を注いできた。発展を持続させるには、水資源、エネルギー資源の供給を安定させる必要がある。しかし、その政策は、インドと対立する地理的位置にある。
水資源は、チベットからくるから、印中国境に軍事展開が進み、インドとの対立が高まっているのは前述の通りだ。しかもチベットでダム建設が進んでいる。中国が建設しているダムは、インドに流れ込む川の上流であることから、中国による水資源の独占、またはダム放流によって洪水を起こす方法を、軍事的に使う可能性も懸念されている。
一方、中国が中東からインド洋を通じて中国の沿岸諸都市にエネルギー資源を運ぼうとするプロジェクトも、インドにとって懸念材料だ。中国は、アメリカ海軍やインド海軍が封鎖可能なマラッカ海峡に依存することを心配し、代替ルート建設を進めている。

