2025年12月6日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年9月23日

 工業化は停滞し、国内総生産(GDP)中の製造業比率は過去20年間で半減。天然資源の活用にも失敗し、石油とガスの巨大な埋蔵量を有するのに、過去20年間、原油純輸入国だ。太陽光と風力発電の潜在力はほとんど利用されていない。

 多くの国民の生活は厳しい。生活必需品価格は高騰し3年前に比べ米価は34%上昇。解雇は常態化し、大卒就職の可能性はどんどん減っている。家庭は借金に苦しんでおり、銀行住宅ローン焦げ付きは、史上最高に達している。

 このような病状に対応するには、賢明な構造改革が必要だ。プラボウォはその代わり、学校給食計画と新ソブリン・ウエルス基金創設のため、政府予算の9%削減を指示した。新基金は国営企業を引き継ぎ今やその配当を得ているが、結果、既にニッケルといった商品価格低落で減少している政府歳入は急速に落ち込んだ。

 ソブリン・ウエルス基金は、プラボウォにのみ説明責任を負う。これ以上縁故主義に繋がるものはない。義父の轍を踏むのか? 大統領が議会の住宅手当中止に合意したのは賢明だったが、暴力的な抗議行動を一層の弾圧の言い訳にするリスクがある。

 現在のインドネシアは1998年の抗議行動で追放された独裁者スハルト統治下の警察国家とは全く異なる。しかし、スハルトの娘と結婚したプラボウォは、明らかに過去の権威主義時代の慣行を懐かしんでいるようだ。それでは、1万7000の島々からなる多民族国家を良く統治できないし、統一を維持することさえも難しい。

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デジタル社会における〝野党〟の出現

 インドネシアの暴動は心配だ。抗議行動は概ね「平和裏」に始まり、バイク便ドライバーの死が暴徒化の引き金を引いた。

 今回の抗議行動ではインドネシアで初めてSNSが本格的な役割を果たした。インフルエンサーの果たした役割も大きかったが、彼らは「声を上げる」ことを重視し、暴力的衝突ではなく、「可視化(透明化)と共感」を呼び掛けていたようである。それが衝撃的動画の拡散で暴力化したが、現場では、一部の正体不明グループが暴徒化を主導したようだ。


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