なお、インフルエンサーたちは、数百万人の市民の声を元に「17+8」の要求を作成した。今後プラボウォ政権がこれにどれだけ真摯に取り組むかが事態鎮静化の鍵になる(注;回答期限の9月5日に、政府・国会・軍・警察側は一定の対応を発表した)。
言い方を変えれば、国会で野党は居ないかもしれないが、市民社会は相当成熟しており、野党に代わりデジタル時代の手段を活用してプラボウォの統治改善のための圧力をかけており、それが実を結んだのだ。まさに、インドネシア型民主主義の勝利だ。
ついで、事実関係を指摘したい。まず、総与党化。それ自体は望ましくないかもしれないが、これは、前任者のジョコウィ政権を含めてプラボウォ政権以前にも何度も行われており、「インドネシア的慣行」だ。
しかし、政党として政権に入っていても、国会では厳しい議論をすることは多々ある。その意味でも、インドネシアの議会民主主義は見た目より成熟している。
第二は、プラボウォとスハルトとの関係。スハルトの娘と結婚したのは事実だし、スハルトは、プラボウォを自分の後継者候補と見なしていたことも事実だ(当時米国もそう見ており、プラボウォへの接近を図っていた)。
しかし、スハルトの娘とはすぐに離婚し、スハルト退陣後、軍の反スハルト派から仕返しをされ、プラボウォは軍籍を剝奪されている。あたかも、今もプラボウォがスハルトの娘と結婚しているかのごときこの社説の書きぶりは若干フェアではない。
歪められる経済指標
インドネシア経済について、9月1日付けのウォールストリート・ジャーナル紙が深刻な指摘をしている。すなわち、第二四半期のGDP成長率は年率5.1%なのだが(それ以外にも貧困率の顕著な減少などが発表されている)、これが経済実態を全く反映しておらず、第三者による検証が必要だ、という指摘が経済専門家から出ているらしい。
プラボウォの経済政策の当否もさることながら、何より問題なのは、経済指標を現政権が操作しているのではないかという指摘である。今や、米国でも同様の問題が発生しうる状況だが、経済指標への信頼が落ちれば、その影響は投資格付けや為替への波及等計り知れない。
トランプ政権と同様に、プラボウォに直言できる人は、アジア通貨危機以来の財政規律維持の歴戦の勇士スリムリヤニ財務大臣(女性)ら限られている。しかも、スリムリヤニは、9月8日の内閣改造で更迭された。こういうところがこの政権の一番の問題だ。
