この間、米印両国政府当局者による相互関税措置をめぐる駆け引きが続いたが、米政府は当初、インドに課した25%関税方針を一歩も譲らなかった。それどころか、トランプ大統領は突如として去る8月2日、インドがロシア産原油を輸入していることを理由に、その「制裁措置」として新たに25%追加関税措置を大統領命令として発表した。この結果、インドに対しては、同盟・友好諸国の中で最も高い50%もの関税が課せられることになった。
大統領命令に関連してトランプ氏は、「インドは対等な貿易を拒み続けており、良き貿易パートナーとは言えない。彼らはさらにロシア原油にも手を出しており、私は一段と高い関税を課すことにした」と説明した。しかし、インド政府側はこの点について「これまで米国の支持を取り付けた上でロシアから原油を買って来た」として、トランプ氏の指摘に反論している。
電話会談で極度に悪化
外交筋の間でも、トランプ氏が対インド25%追加関税措置の理由として挙げたインドのロシア原油輸入について、たんなる口実だとする見方が多い。ロシア原油の最大輸入国である中国に対しては、トランプ大統領はインド並みの厳しい措置をとっていないことや、トランプ大統領は従来から、ウクライナ戦争の“仕掛け人”であるロシアに対する経済制裁に本腰で取り組む考えを持っていないことなどがその根拠となっている。
いずれにしても、トランプ氏がインドに対し最近、冷ややかな態度をとり続けていることだけは明白だ。特に去る6月、両首脳間の電話のやり取り以降、関係が極度に悪化したといわれる。
この間の事情について、米ニューヨーク・タイムズ紙は、8月30日付けの特別記事で以下のように報じている:
「モディ首相は実際のところ、トランプ氏の一連の言動に我慢できなくなりつつあった。トランプ氏は6月17日、モディ首相との電話会談で、たびたび自分の功績に言及したほか、『パキスタン政府側は(停戦努力を評価し)私をノーベル平和賞受賞候補に推薦してくれている』と述べて、暗にインド政府側にも同様に推薦をさえほのめかしていた。しかし、いらだったモディ首相は電話口で『停戦合意は米国の関与と何の関係もない』との自説を繰り返し、ノーベル平和賞問題には何らコメントしなかった。トランプ氏はモディ首相の言い分について一笑に付したが、その後の両国関係悪化につながっていった」
「とくに8月に入って50%もの高関税がインドに課せられたことは、わずか19%の関税で免れている敵対国パキスタンとの対比においても、『屈辱的措置』と受け止められ、インド国内各地では、トランプ氏に模した人形に火がつけられるなど反米デモが繰り広げられる騒ぎとなった。……そして、モディ首相は直後に、トランプ大統領に背を向けるかのように、習近平国家主席、プーチン大統領らが参集する上海協力機構(SCO)首脳会議出席のため、訪中の途に就くことになった」
現に、8月31日~9月1日に天津で開かれた同首脳会議とは別に行われた中印首脳会談では、米国の高関税に対する「共闘態勢」を確認するとともに、これまで国境紛争を主な要因として対立関係にあった双方が今後は「敵ではなくパートナー」として連携強化に乗り出すと高らかに謳い上げ、反米的色合いの濃いものになったことは、内外メディアで大きく報じられた通りである。
さらに、モディ首相はSCO会議終了後、プーチン大統領とも親しく会談、両国間の「戦略的パートナーシップ」強化を再確認するとともに、年内にインドで正式な両国首脳会談を開催することでも合意した。
