「インド太平洋防衛」が格下げ
このように、対中戦略上のカギを握るインドが、同じく太平洋に大きな権益を持つ中国そしてロシア両国との関係拡大に乗り出したことは、今後、米国にとって警戒材料のひとつとなりかねない。同時に、インド太平洋戦略を外交の柱とする日本にとっても大きな痛手でもある。
もう一点、日本の外交戦略上懸念すべきは、第二次トランプ政権の今後の国防安全保障戦略そのものの方向性だ。
軍事専門の電子メディア「Defense One」など米各メディアが最近、報じたところによると、トランプ政権下で新たに作成中の「国家防衛戦略」(NDS)原案では、最優先課題として「本土防衛」が浮上し、インド太平洋における中国そしてロシアの存在を重視してきた従来の防衛力強化は格下げになった。
「Defense One」によると、同戦略作成の責任者であるエルブリッジ・コルビー国防次官(国防政策担当)は第一次トランプ政権下の18年当時のNDS作成の際、「『中国』が米国にとっての主たる脅威であり、『インド太平洋』が米軍事戦略の最優先戦域となる」と宣言したが、今回は『本土防衛』を最重要視し、『中国』そして『ロシア』の優先順位を下げるよう(長官から)指示されたという。
果せるかな、大統領はこの新たなNDSに歩調を合わせるかのように、年内にインドで開催予定の「クアッド」首脳会議に出席しないことを決定した(ニューヨーク・タイムズ紙報道)。次回「クアッド」首脳会合はインドが主催国を務めることが内定していたが、具体的開催時期については流動的で、11月にずれ込む公算が大きいといわれる。
それにしても、もし、米印関係のこじれからトランプ氏が同会合を欠席することになれば、米国が「クアッド」重視の日本側の意に反し、インド太平洋戦略を軸にした共同戦線からますます後退していくことを意味し、今後の国際政治の大きな波乱要因ともなりかねない。
印パ間調停の功績認知とノーベル平和賞受賞推薦にこだわり続けるトランプ大統領とこのどちらにも与しないモディ首相――。両国間の深刻化する対立と緊張がもし、伝えられる通り、双方の相いれない私怨に起因しているとすれば、あまりにも低次元の“悲劇”というほかない。
