2025年12月5日(金)

トランプ2.0

2025年9月19日

 わが国の外交基本方針である自由で開かれたインド太平洋戦略が、米印関係冷却化で先行き不透明になりつつある。背景に、トランプ大統領による関税政策と厳しい対インド外交姿勢がある。

(Anna Moneymaker /Global Images Ukraine/gettyimages)

重要視していた米印関係

 インド太平洋戦略は2007年8月、安倍晋三首相(当時)がインド国会で行った「二つの大洋の交わり」と題する演説で、太平洋とインド洋の二つの海の交わりによる「拡大アジア」を対象とした自由民主主義諸国の発展と協力拡大を訴えたことが端緒となった。

 トランプ第一次政権も18年2月、これを事実上、踏襲するかたちで公式に「自由で開かれたインド太平洋戦略」を発表。その後、日米両国主導の下にフィリピン、ベトナムなど東南アジア諸国連合(ASEAN)、インド、オーストラリア、さらに中東・アフリカまでを包含した大規模な枠組みへと拡大していった。

 さらに米国は25年1月発足した第二次トランプ政権下で、同戦略を中国への対抗手段としてとくに重視するようになり、去る1月21日、首都ワシントンで開催された日米豪印の戦略対話「QUAD(クアッド)」外相会合後、東シナ海・南シナ海で軍事行動を強める中国を念頭に「力または威圧によるいかなる現状変更の試みに断固反対する」との強い調子の共同声明を発表するに至っている。

 とくに「クアッド」は、ともに核保有大国であると同時に、対中国警戒感を強めつつあった米印両国が軸となってきただけに、同じ価値観を共有する日本にとっても今後、インド太平洋戦略を進めていく上で重要な「錨」と位置付けられてきた。

 トランプ大統領自身、第一次政権当初からインドとの関係拡大に力点を置いてきたのも、対中戦略の一環としての「クアッド」の存在を重視してきたからにほかならない。

 実際、米印両国は17年、モディ首相が就任間もないトランプ大統領をホワイトハウスに訪問以来、着実に緊密な関係を築きつつあった。初訪問の際は、大統領もメラニア夫人とともに同首相をエントランスまで出迎え、会談後は、同年の諸外国首脳の訪問では初となるワーキング・ディナーを催すなど、親密ぶりを内外報道陣にアピールした。

 続いて19年には、モディ首相が米テキサス州ヒューストンのプロフットボール・スタジアムで開催された5万人超のインド系米国人大集会に出席。トランプ大統領もワシントンから駆けつけ、抱擁して再会を喜び合うとともに、「これは本当の意味での歴史的イベントであり、米国における外国指導者に対する最大規模のレセプションだ」などとして同首相の人望をたたえた。


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