そんな廣瀬シェフの料理は、輝かしい修行歴を映して、旬の素材の味わいを活かす繊細さが魅力。まずは前菜、「冷菜の生ウニのトマトのジュレ和え」をサーブしながら石井さんが言う。
「この透明なトマトのジュレは、スペインの3つ星で学んだうちのシェフが、日本で最初に披露したものですよ」。バスクにある『マルティン・ベラサテギ』のことらしい。トマトの香りと風味が生ウニを優しく包んだ贅沢な料理。550円なり!
軽妙な和の色調も麗しい「みょうがと生ハムの前菜」に「コシアブラとホタテの前菜」を冷えた白ワインでいただく。他にも筍やフキノトウと珍しい山の幸は、イタリアでは逆立ちしても味わえない。自然豊かな福島で育ち、日本料理も覗いたシェフらしい一品だ。
パスタは「桜えびとズッキーニのアラビアータ」と「空豆とペコリーノチーズのタリアテッレ」の2種をいただく。エミリア・ロマーニャ州やピエモンテ州と手打ちパスタにうるさい地域でも学んだシェフは、常に数種の手打ちパスタを用意、自由に選べる。
こと、空豆とクセのあるペコリーノ、黒コショウがいい塩梅に調和したパスタは絶品。石井さんいわく「寒い季節には、この空豆が銀杏になるんですよ」。それ、食べてみたいなあ。
さすがに前田ポークのローストや黒毛和牛のタリアータに進むには飽和状態。それでもしめは別腹のジェラート。
これもすべて自家製。マルサラとアマレット、リキュール系を盛り合わせたが、これまたなめらかで最高。ランチは2択、サラダとパスタで900円の安さだが、やはりここは、夜、ボトルを空け、ゆっくり味わうのが正解だろう。
福島の子供たちのために、何かできることがあれば
雑然とした下町の一角にあって最初は少々苦労した。福島の店のローンもまだ返済が終わっていない。それでも口コミで常連も増え、少しづつ軌道に乗り始めた。