焦りを感じた社員が半ば強引に医師を説得して「復職可能」の診断書を書かせ、首尾よくそれが会社に受理されても、準備不足のまま復職すれば、早晩挫折する。そして、休職と復職とを何度か繰り返せば、自然と退職へと追い込まれる。
主治医の答はいつも同じである。「ご希望だから休職の診断書を書きました」「ご希望だから復職の診断書を書きました」である。すなわち、休職も自己決定、復職も自己決定、復職の失敗も自己決定の結果である。これを、「自己決定権の尊重」といえば、聞こえはいいが、その実態は、究極の自己責任主義であるといえる。
人手不足を深刻化させる
結局のところ、休職ビジネスは、適応力の低い社員を狙い撃ちし、「メンタル不調→長期休職→退職→就労困難」という負のスパイラルにおとしいれる。社会的自立を妨げ、生活困窮者を増やし、労働力人口に占める就業者の比率を下げ、完全失業者の割合を高める。ただでさえ人口減の日本で、産業界の人手不足問題はいっそう深刻化し、メンタルクリニックだけが隆盛を続ける。
筆者は、都内のメンタルクリニックに非常勤で勤める精神科医でもある。一部のメンタルクリニックの休職診断書乱発を見るにつけ、倫理的懸念を抱かざるを得ない。
では、どうすべきか。企業経営者にはできることがある。その点を次回以降に詳述する。
