「休職」は会社が発令するもの
メンタルクリニック休職診断書の問題は、社会の根幹を揺るがす脅威となりえる。そのリスクに気づくべきは、経営者である。社長こそ、乱発される「要休職」診断書が人事総務担当者を困惑させている事実に気づいていただきたい。
休職発令の辞令には、「休職を命ずる」との文言とともに、「株式会社○○○○ 代表取締役 ○○○○」と記されている。ほかでもない社長自身の名がそこに記され、社長印が押されていることが多い。手続き上、発令したのは、社長ということになっている。
このWedge ONLINEの記事を読んでいる経営者の皆さんは、忙しくて時間がないかもしれない が、事態の深刻さを理解するには1分とかからない。「休職 診断書 即日発行 オンライン」でインターネット検索していただきたい。ただちに無数のメンタルクリニックがヒットする。
ついで、「休職 診断書 もらい方」で動画検索していただきたい。やはり、無数のサイトがヒットする。これらの膨大なサイトが示唆する事実は、まだ、診察していないはずのクリニックが、自宅療養に値する健康状態かを知らないはずなのに、今まさに会社で仕事をしている社員に対して、休職を誘っているということである。
その中には、抑うつ、不安、不眠等の精神症状を抱え、精神医学的治療を必要とし、真に自宅療養が必要な社員もいる。しかし、そうではない人も混じるであろう。
うつではあっても、「条件付き就業継続可能」なケースかもしれない。自宅療養は必要だが、その場合も「3ヵ月」もの長きではなく、「2週間」で済むかもしれない。さらには、そもそもいかなる精神医学的状態に該当しない場合もあるかもしれない。
ここで、あえて「休職」と「自宅療養」という用語を使い分けているが、本来、「休職」とは会社が命じるものであり、医師が命じるものではない。医師には「自宅療養が必要」と診断書に記すことはできるが、会社の人事権を持っておらず、「休職」を社長に命令することはできない。同じく、社員は「休職」を申請できない。
すなわち、クリニックの医師も、「休職」希望の社員たちも、「休職とは社員が診断書を添えて『申請』すれば『取得』できる休暇」と考えているが、これは誤解である。「休職」とは、会社が「発令」するものであり、その本質は「復職を前提とした労働契約解消猶予」、端的に言って、「解雇猶予」である。
もちろん、会社は解雇権を濫用してはならない。さらに、安全配慮義務も課せられる。しかし、安全配慮義務の履行とは、外部機関である診療所から発行された診断書を、あたかも辞令のように見なして、その文面そのままの休職発令を行うことではないはずである。
