2025年12月5日(金)

深層報告 熊谷徹が読み解くヨーロッパ

2025年9月26日

 欧州連合(EU)の加盟国は、2050年までに気候中立を達成しなくてはならない。このため、ヨーロッパの国々にとって自動車の脱炭素化は極めて重要なテーマだ。その結果、BEVメーカーにとってヨーロッパは、ビジネス拡大のチャンスを秘める市場となっている。

 EUが昨年、中国からのBEVに関税をかけ始めたことは、ヨーロッパ側の警戒心を示している。彼らは、国からの補助金で価格を引き下げられた中国のBEVが、ヨーロッパ市場を席巻することを恐れている。

 中国のBEV市場で最大のマーケットシェアを持つ比亜迪(BYD)は、ミュンヘンの目抜き通りにひときわ目立つ大きなスタンドを設置した。多数の訪問者が、BYDの車の運転席に乗り込んだり、写真を撮影したりしていた。

 ヨーロッパでは、中国メーカーのマーケットシェアはまだ小さい。調査会社JATOによると、今年5月の全ての中国企業の販売台数を合計しても、ヨーロッパ市場でのシェアは5.9%に留まっている。それでも、中国のBEVの販売台数は、着実に増えている。BYDの今年5月のヨーロッパでの販売台数は約7100台とまだ少なかったが、前年同期比で115%増えた。ドイツの路上でも時折BYDの車を見かけるようになった。IAAモビリティーでは、小鵬汽車(シャオペン)、零跑汽車(リープモーター)などドイツでほとんど知られていない中国企業もBEVを展示した。

 韓国の自動車メーカーも、大通りに広いスタンドを設置して、存在を誇示していた。これに対し日本からは部品メーカーが数社参加しただけで、自動車メーカーは全く参加しなかった。燃費が非常に良い日本のハイブリッド車は、ドイツの消費者の間で好評である。特にタクシー運転手の間では、トヨタのプリウスやカローラなど、日本のハイブリッド車の人気が高い。それだけに、日本のメーカーの不参加を寂しく感じた訪問者もいた。

ドイツ企業も展示の中心はBEV

 ドイツのメーカーの展示の中心も、BEVだった。ミュンヘンに本社を持つBMWは、急速充電能力400キロワット(kW)のSUV・iX3、メルセデス・ベンツ(本社・シュトゥットガルト)は充電能力330kWのSUV・GLCを発表した。メルセデス・ベンツは、ミュンヘンの中心部にある王宮の中庭に展示場を設置。この展示場では、多くの市民が新型SUVを取り巻いていた。

中国のBYDの広い屋外展示場には、多数の市民が詰めかけていた

 ヨーロッパ最大の自動車メーカー、フォルクスワーゲン(VW)グループ(本社・ヴォルフスブルク)も、新車価格2万5000ユーロ(425万円・1ユーロ=170円換算)のIDポロなど4種類の新型BEVを発表した。IDポロは、同社がこれまでに発表したBEVの中で最も割安のBEVだ。

 VW乗用車部門のトーマス・シェーファー最高経営責任者(CEO)は、会場で行われたパネル・ディスカッションで「欧州の脱炭素化には、BEVは不可欠だ」と述べ、同社が今後もBEVに力を入れる方針を強調した。


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