2025年12月5日(金)

深層報告 熊谷徹が読み解くヨーロッパ

2025年9月26日

 ドイツの大手自動車メーカーは、今年上半期にトランプ関税の影響や中国市場での不振、過剰生産能力の増加などのために、大幅な減益を記録した。このため各社とも従業員数の削減や不採算部門の閉鎖など、経費節減に追われている。今回のIAAモビリティーでドイツ企業は、新製品の発表によってBEVにおける製品開発力を誇示し、業界に漂う重苦しい雰囲気を吹き飛ばそうとしているように見えた。

 会場で講演したドイツ連邦政府のフリードリヒ・メルツ首相は、「自動車産業は国の根幹だ。業界が競争力を高められるように、政府は法的枠組みを整えていく」と述べた。首相は「テクノロジーの多様性の重視」という言葉を使って、当面はBEVだけではなく内燃機関も含め様々な技術を併存させることの重要性を強調した。

 バイエルン州のマルクス・ゼーダー首相は、「EUが決めた、2035年の内燃機関の新車の販売禁止は、ドイツの雇用を脅かす。内燃機関の車も合成燃料を使えば、未来はある」と述べたが、彼のような意見はIAAモビリティーでは少数派だった。

ヨーロッパの将来のモビリティーの主軸はBEV

 日本のメディアでは、時折「ヨーロッパのBEVブームは終わった」という論調が見られる。たしかにドイツ政府の補助金廃止などの影響で、2021年から2023年のような爆発的な売れ行きは見られなくなった。だがドイツの自動車メーカーは、将来のモビリティーの主軸をBEVに置いている。ドイツ自動車工業会(VDA)のヒルデガルド・ミュラー会長によると、今年ドイツの自動車メーカーが生産する車の40%がBEVだ。

 ただし、ヨーロッパの消費者は、意外と保守的である。現在ドイツで走っている約4900万台の車のうち、BEVの比率は3.6%にすぎない。ヨーロッパの自動車メーカーは、BEVの電池の内製化ができていないので、BEVは補助金がないと割高である。公共充電器の数もまだ不足している。中古車市場でも、BEVが少ない。このため、ガソリン・エンジンやディーゼル・エンジンを使う車が、BEVと併存する期間が、以前考えられていたよりも長くなることは確かだ。

 それでも、中長期的に、ヨーロッパの自動車市場において、BEVは欠かせない存在だ。トヨタが今年9月3日に、「チェコの工場で今後数年以内に、BEVの生産を開始する」と公表したのはその表れだ。同社がヨーロッパでBEVの生産を行うのは、初めてである。我々日本人も、ヨーロッパのモビリティーが変化する方向性を、意識する必要がありそうだ。

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