2025年12月6日(土)

トランプ2.0

2025年10月7日

ウクライナ発言の真意

 トランプは自分がノーベル平和賞を受賞しなければ、「米国への大きな侮辱だ」と述べて、ノルウェーノーベル委員会の選考委員に圧力をかけた。トランプの圧力は、高率の関税をかけたり、当事国にダメージを与えるような金に関わる類のものである。こうした圧力の使用は、彼の常套手段だ。

 その一方で、彼は9月23日、自身のSNSにウクライナとロシアの戦争に関して、「欧州の支援があれば、ウクライナは全土を元の形に取り戻すことができる」と投稿した。この投稿について、トランプはウクライナから手を引くのか、あるいはウラジーミル・プーチン露大統領を交渉のテーブルにつかせるための交渉戦術なのかなど、種々の解釈が出された。ホワイトハウスは交渉戦術の立場をとっている。

 それに対して筆者は、トランプのこの投稿もノーベル平和賞受賞を狙った戦術の1つと捉えている。これまでトランプは、プーチンに与する発言を繰り返してきた。例えば、「ウクライナの領土分割はやむを得ない」「クリミアは戻ってこないだろう」などである。

 これらの発言は、確かにプーチンを交渉の場に連れ出す意図が込められているように思われる。もっとも、プーチンがその意図に沿った形で応じることはなく、トランプのメッセージに乗じてウクライナへの攻撃を強めてきたのだが……。

 さすがにトランプも、これ以上プーチン寄りの発言を続けると、ノーベル平和賞を受賞できないと思ったのか、プーチンと距離を開け、ウクライナ寄りの発言に変えたとも言える。つまり、この方針転換もノーベル平和賞受賞のためのコミュニケーション戦術である。

トランプは平和賞受賞に値するのか?

 トランプは4月2日、ホワイトハウスのローズガーデンで多数の貿易相手国に対する相互関税を発表した。カンボジアには49%、タイには36%の税率とされていた。

 彼は、関税率引き下げを持ち掛け、それを条件に国境で紛争を起こしている両国に和平合意を成立させた。「関税率引き下げ」と「和平」のディール(取引)である。続いて、カンボジアにトランプのノーベル平和賞受賞候補の推薦をさせた。

 この点においては、トランプの関税措置は地域に平和をもたらしたと言えなくもない。しかし、トランプは実業家のイーロン・マスク氏を政府効率化省(DOGE)のトップに据えて、米国際開発庁(USAID)の連邦政府職員を大量に解雇した。その結果、エイズやポリオ患者および自然災害の被害者が支援を受けられず、トランプの政策は彼らの生命を危険にさらした。

 戦争の無い状態である平和を、人々の生命に対する脅威の無い状態で暮らせることと拡大して考えるならば、トランプの政策は平和賞受賞に値しない。実際、選考委員会の中からも、このような意見が出ていると報じられている。


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