一時閉鎖を利用するトランプ
今回の連邦政府の一時閉鎖に関して興味深いのは、二大政党共に、政府の再開に向けて交渉しようとする情熱がこれまでと比べて弱そうに見えること、さらに言えば、政府の一時閉鎖を政治的目的の実現のために利用しようとしているように見えることである。
トランプ大統領は、「政府閉鎖中に、民主党にとって取り返しのつかない、悪影響を及ばせることができる」と述べて物議を醸したが、実際に民主党が優位する州に配分される予定だった数百億ドル規模の連邦予算を停止した。ニューヨークの地下鉄やハドソン・トンネル建設プロジェクトへの約180億ドルの支出も含まれるが、これらのプロジェクトは上下両院の民主党指導部の地元で行われているのは偶然ではないだろう。また、過去の政府閉鎖の際には連邦政府職員を一時休業させ、再開時に未払い給与を支給してきたが、トランプ大統領は職員を恒久的に解雇し、政府機関を解体すると脅している。
行政部門には無駄が多いと主張し、民間企業の手法を導入すれば官僚機構の無駄を削減できると発言する識者や民間企業経営者は一定程度存在する。官僚制の規模縮小はポピュリストが好むトピックである。
また、トランプ政権誕生に向けて保守派が主導したプロジェクト2025でも、政府規模縮小は目標として掲げられていた。だが、その実現は容易でないし、妥当性に欠ける可能性もある。
トランプ大統領は就任後、実業家のイーロン・マスクに政府効率化省(DOGE)を率いさせて、25年3月までに最低でも政府の無駄を1兆ドル節約すると宣言した。だが、5月末にマスクが退任した際に削減したとマスクが発表した金額は1750億ドルである。その実績を裏付ける証拠や書類もほとんど存在せず、実際の削減規模はそれよりも少ないのではないかと指摘されている。
トランプとマスクという圧倒的な個性の存在を前提としてもさらなる削減が困難だったのを、トランプ大統領と共和党財政保守派は、連邦政府一時閉鎖の機会を活用し、民主党に責任を押し付ける形で実現しようとしている節がある。
妥協はしない民主党
他方、民主党側の事情も複雑である。
第二次トランプ政権発足後、民主党の左傾化はさらに加速しており、穏健派の存在感が大幅に低下している。ニューヨーク市長選挙の民主党の予備選挙で社会民主主義者を自称するマムダニが勝利したことはその象徴的な例である。
また、民主党支持者の中で資本主義よりも社会主義を肯定する立場が顕著に増えており、25年8月のギャラップ社の世論調査では、民主党支持者で資本主義を好ましいとみる人が42%にとどまる一方で、社会主義を好ましいとした人は66%だった。このような状況の中で、トランプ政権と共和党が推し進めようとするメディケイドやSNAPの削減に賛成することは到底できないだろう。
