2025年12月6日(土)

Wedge REPORT

2025年10月10日

 もちろん日本ではそれ以外の産業やエッセンシャル(介護等)産業の人材も必要なので、日本の産業全体の人材ポートフォリオを大局的に再考する必要があるのだが、本稿では観光にフォーカスして考察する。

観光はいかに経済波及するか

 観光支出は、宿泊・飲食・交通・小売などで直接的な経済効果をもたらし、関連産業への波及(間接効果)や所得増加を通じた再消費(誘発効果)を生み出す。産業連関表や観光サテライト勘定(TSA)を用いることで、観光の経済貢献度を定量化することが可能である。

 欧州の地域分析でも、観光資源の魅力度が高い地域ほど観光雇用は増加し、とくに高失業地域ではその効果が顕著であることが確認されている。これは、観光が「労働吸収型産業」であることを示している一方で、地域構造によって成果が大きく異なることも意味する。資源構成、交通アクセス、ガバナンス能力、住民意識といった複合的要因が、観光の波及効果を左右する。

地域の構造特性と4つの観光モデル

 観光を地域経済の柱とするには、地域の構造特性に応じた戦略が不可欠である。地域を四つのパターンに分類し、それぞれの特性と課題、戦略を整理する。

 第一のパターンは、高資源・高需要型の成熟観光地である。京都市、沖縄本島、箱根などがその典型であり、歴史・文化・自然資源が豊富で、すでに高い来訪者数を誇る一方、オーバーツーリズムの傾向が見られる。

 課題としては、環境負荷の増大、生活インフラの混雑、観光消費単価の伸び悩みが挙げられる。戦略としては、プレミアム体験やMICE誘致による滞在時間延長と消費単価の向上、閑散期イベントやデジタルパス活用による来訪時期の分散、観光税や入域料を活用した環境保全基金の創設と地域住民への還元、そして文化・芸術・ウェルネスツーリズムといった高付加価値型インバウンドの推進が重要である。

 第二のパターンは、高資源・低需要型の潜在観光地である。東北の山岳温泉地や四国山間部などが該当し、自然や文化資源は豊富であるものの、知名度やアクセスが弱い。

 課題はプロモーション不足と観光インフラの脆弱さである。戦略としては、物語性ある資源パッケージによる地域ブランド構築、歩道や景観整備といったローカル開発投資による安全性・魅力度の向上、周辺の成熟観光地との広域連携による周遊ルート化、さらにデジタルプロモーションによる海外や都市圏市場への直接訴求が効果的である。

 第三のパターンは、低資源・高需要型の都市近郊集客地である。首都圏近郊のテーマパーク周辺や日帰り温泉地がこれに当たり、特定施設や立地条件によって集客しているが、資源の多様性に欠ける。

課題は滞在型消費の不足と域外資本の流出である。戦略としては、例えば地元商店街や農産物直売所など周辺エリアへの回遊導線の構築、民泊を含む宿泊施設の充実やナイトタイムエコノミーの導入、地元事業者との提携による域内付加価値の最大化、さらに季節イベントや文化体験を組み込んだ再訪促進策が求められる。


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