次に、県や市レベルで産業構造を再配置する。例えば、都市圏は国際金融やコンテンツ産業に注力し、地方中核都市は観光・医療・教育を中心に地域経済を牽引する。中山間地域では観光と農林水産・再エネを結合し、「観光×地域産業」の複線型雇用を推進する。この構造によって、観光が地方の雇用吸収の受け皿から、成長の核へと転換することができる。
低賃金打破へ3つの戦略
観光の低賃金構造を打破するには、第一に生産性向上に向けた投資の集中が必要である。AI予約、在庫最適化、スマート決済などにより一人当たり付加価値を引き上げ、賃上げの原資を確保する。
第二に、価格転嫁の仕組みを整え、高単価・滞在型観光へ転換する。京都や沖縄のように宿泊税を導入するパターンもあり、観光の潜在性を持つ地方圏では地域ブランド化が有効である。
第三に、観光職の専門職化を進め、観光マネジャーやDMOデータアナリストなどを制度的に認定する。給与水準を他産業並みに引き上げることが、若年層の参入を促す鍵である。
国・県・市の三層連携で「観光×雇用促進」政策を整備し、観光を地域の持続的成長産業と位置づける必要がある。
観光がエッセンシャルワーカーをつなぐ接着剤に
2040年の日本において、製造業の自動化と人口減少は不可避である。その中で、観光は人と文化と体験を通じて地域の所得を生み出す「社会インフラ産業」へと進化するだろう。介護、農業、教育、エネルギーなどのエッセンシャル分野を支えつつ、観光がそれらをつなぐ接着剤の役割を果たすことで、地域経済は多層的に再構築される。
観光を軸にした地方経済の再設計とは、「地域の客観的な人口予測を基に、地域に誇りを取り戻し、地域に新たな所得循環を生む仕組み」を創ることである。それはまさに、新しい資本主義が目指す「成長と分配の好循環」の地方版の実現であり、日本の持続可能な未来を支える中核戦略である。
