フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのガネッシュが、9月24日付け論説‘Europe’s necessary appeasement of Donald Trump’において、貿易でトランプに譲歩することは欧州の安全保障への米国の関与を確保するためであれば価値あることだ、と述べている。要旨は次の通り。
今回の論説では、当初は、貿易でトランプに屈服した欧州連合(EU)を非難するつもりだった。だが議論を組み立てるうちに、果たして他により良い選択肢があったのかどうか、ますます不明瞭になってきた。
米国の貿易相手国、特に中国、インド、ブラジルは厄介な問題に直面しているが、EUの問題はやや違う。ひとつの隣国がロシアと生存をかけて戦っている。
二つの加盟国がロシアにより領空を侵犯された。戦後80年経つが、これほど豊かな欧州が依然として米国の(軍事的)保護に依存しているのは恥ずべきことだが、それは現実だ。もし保護の代償が重大だが存立を脅かす程ではない貿易の譲歩であるなら、欧州は受け入れるしかない。
EUのウェイアンド通商局長は、「欧州は、安全保障確保に係る大西洋関係を安定化させるために迅速な解決策を見つけるよう大きな圧力を受けていた」、「欧州大陸で陸上戦争が起きている。我々は完全に米国に依存している」と言った。官僚としては大胆な発言だ。当惑するが、その率直さは称賛する。
トランプに弾劾と同様2回の国賓訪問を与えた英国も、同様に率直だ。英国王が二代続けて、選挙妨害を企てた賓客に微笑みを強いられるのを見るのは、愉快なことではない。
しかし英国がトランプを持ち上げる理由は、世界で自国を誇示し、AI投資を確保するためだけではない。トランプにウクライナと欧州の安全保障への関与を続けさせるためなのだ。幸いなことにトランプは、「おだて」や服従を好む。
ウクライナは今世紀最大の問題であり、そこでの不利な結末は90年前のアビシニア危機のように独裁者を勢いづけかねないと信じる我々は、誇りやお金を費やしてでもこの件でトランプを動かすことに反対する訳にはいかない。しかし、二つの留保がある。
第一に、トランプ懐柔の論理は欧州以外では成立しない。ほとんどの地域では有効でない。
第二に、欧州でさえ、対トランプ宥和はあくまで自立的な未来への橋渡し策でなければならない。2030年代に自らの防衛を確保するには、資金だけでなく、EUの枠組みの外での意思決定を含め、一層迅速でコンセンサスを緩めた決定手続が必要になるだろう。
