2025年12月6日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年10月15日

 なぜなら、加盟国ではない英国が強い軍事力を持ち、スペインやイタリアではロシアへの恐怖心が低いからだ。トランプへの屈服は、こうした改革が並行して進む場合にのみ意味を持つ。危険なことは、貿易の短期的譲歩が余りに成功し、それが恒常的な政治外交術として定着することだ。

 これらの留保を踏まえて、欧州は通商での不利を受け入れ、より重大な事項を優先せざるを得ない。それは品がないが、賢明な行為はしばしばそういうものだ。

 歴史は、後継者のために苦しんだ指導者をあまり報いない傾向がある。おそらく、今の欧州各国首脳、EUのフォン・デア・ライエン委員長、NATOのルッテ事務総長は、名誉を損うだろう。

 彼らは今、トランプへの従属で非難されるが、注目すべきは過去と未来である。かつての指導者や知識人、そして最終的には有権者達が、大陸をこの屈辱的状況に追い込んだのだ。

 クリミア併合後ですら「ソフトパワー」を口にする愚者がいた。未来について言えば、フォン・デア・ライエン世代の屈辱こそが、後継者達にハードパワー構築の機会を与えるきっかけになるのかもしれない。

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日本にとっても経済崩壊の危機

 上記論説でガネッシュは、「戦後80年経つが、これほど豊かな欧州が依然として米の保護に依存しているのは恥ずべきことだが、それは現実だ。もし保護の代償が、重大だが存立を脅かす程ではない貿易の譲歩であるなら、欧州は受け入れるしかない」と述べ、安全保障のためには一定の対トランプ譲歩や「おだて」は受け入れるべきだとの考えを述べる

 しかし、ガネッシュの議論は、決して軟弱な「宥和論」ではない。ガネッシュは、記事の冒頭で「今回も当初は、貿易でトランプに屈服したEUを非難するつもりだった。だが議論を組み立てるうちに、果たして他により良い選択肢があったのかどうか、ますます不明瞭になってきた」と言い、ウクライナへのロシアの侵略やポーランド等への領空侵犯を念頭に今の欧州の屈辱を機会に、欧州は軍事力を強化し、ロシアへの対応体制を構築すべきだと主張する。

 そして宥和論の有意について、二つの留保をつける。第一は「トランプ懐柔の論理は欧州以外では成立しない」、第二は「対トランプ宥和はあくまで自立的な未来への橋渡し策でなければならない」と言い、単なる宥和や懐柔ではなく、軍備力の増強などポジティブな政策や体制の確立に繋がるものでなければならないと言う。


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