肛門がんにも適用
子宮頸がんは主に性交渉で感染するため、男性が接種すれば、女性の子宮頸がんをも予防できる。その意味で9歳以上の男性に9価ワクチンが承認されたのは一歩前進だといえる。しかも、今回は9価ワクチンが肛門がんと尖圭コンジローマの予防にも認められた。
肛門がんは男女合わせて年間1219人が罹患し、569人(男性278人、女性291人)が死亡する(がん研究振興財団の「がんの統計2025」)。肛門がんは子宮頸がんと同様にHPVによる持続的な感染を経て発症する。
手術をした後でも5年生存率は約40%と低い。早期に発見できる定期的な検診がないため、ワクチン接種の意義は大きい。
肛門がんへの適用が認められたのは、国内の複数の医療施設の臨床試験の結果、ワクチン接種がウイルスの持続的な感染を抑えることが分かったからだ。この臨床試験は男性1059人を対象に行われ、9価ワクチン接種群(529人)では6カ月以上の持続的感染者が2人だったのに対し、偽薬のプラセボ群(非接種群、530人)では18人と、ワクチン接種群で約89%の抑制効果が示された。死亡や試験途中の投与中止などの有害事象はなく、ワクチンが原因とみられる重副反応は見られなかった。
一方、尖圭コンジローマは、性器にイボができ、痛みやかゆみが伴う病気。厚生労働省によると、年間の罹患者は多く、男性が約4万5500人、女性が約3万2100人。性交渉で感染しやすく、イボができると心理的な悩みも大きいが、早期に発見する検診方法はないのが実情だ。
こうした臨床試験などから、川名敬・日本大学医学部産婦人科学系産婦人科学分野主任教授は「9価ワクチンの有効性や安全性は海外の研究報告でも確認されている。肛門がんや尖圭コンジローマは子宮頸がんのように推奨された定期検診はないため、男女ともにHPVワクチン接種を受けることが有効な予防方法のひとつだと確実に言える」と話す。
女性だけに接種を強いてよいのか?
問題は、日本では男性の接種費用が自己負担という点だ。定期接種を認めるかどうかについては、現在、厚生労働省の厚生科学審議会で審議されているが、9月25日に開かれた委員会でも結論は出ず、継続審議となっている。
こうした中、日本産科婦人科学会や日本感染症学会など32の学術団体で組織した「予防接種推進専門協議会」(岩田敏委員長)が10月1日、「HPVワクチンの男性に対する定期接種化に関する要望」を厚生労働省に提出した。その要望書の中で「HPV関連疾患(筆者注・子宮頸がん、中咽頭がん、肛門がんなど)は男性にも発症するにもかかわらず、女性のみにワクチン接種の負担を強い、男性は希望しても自費でワクチンを受けねばならない状況は男女不平等と言わざるを得ない」と女性に負担を強いている現状を問題視し、男性が接種すれば、HPV関連疾患の抑制で集団免疫効果が期待できると指摘している。
