2025年12月16日(火)

冷泉彰彦の「ニッポンよ、大志を抱け」

2025年11月6日

実務的なミスと言えるJICA「ホームタウン」問題

 例えば、参院選の約1カ月後に起こった国際協力機構(JICA)の「ホームタウン」問題がある。これは、石破茂政権が開催した第9回アフリカ開発会議(TICAD9)が横浜で開催されたタイミングに合わせて、JICAがアフリカ各国と日本の都市の間に、国と都市の姉妹都市構想のような友好関係を構築するために発表したものだ。

 けれども、ナイジェリア政府が誤解に基づく発表をしたり、各国のメディアも構想の具体的な目的などについて不正確な報道を行ったりしたことから、日本国内の該当する都市から反発が出た。つまり「ホームタウン」となった都市には、相手国から移民が来るとか、そのために簡単にビザを出すといった誤解が生じたのである。これを、世論の感情論に迎合してビューを稼ごうという無責任な「ネット世論」が煽った結果、追い詰められたJICAは構想自体を撤回するに至った。

 亡くなった安倍晋三元首相が必死になって広大なアフリカ大陸における首脳外交を続けて構築した、日本とアフリカ各国の二国間関係も、そしてその成果として続いているTICADの将来にも暗雲が漂うこととなった。この問題により、とにかくJICAと当時の石破政権の甘さが露呈した格好である。

 世論が簡単に「排外」工作に踊らされてしまう兆候を見るのであれば、TICADについてより踏み込んだ情報発信を行うべきであった。またJICAは、「ホームタウン構想」について、誤解を招きやすいネーミングを行い、根回しが不足していたという実務的なミスを犯してしまったわけであり、猛省が必要だ。

 アフリカは、日本経済にとって資源の調達先としても、現在そして潜在的な市場としても大切だ。また安全保障上も「インド洋に連なる地政学上の要衝」として、戦略的な重要性を持っている。だからこそ、亡くなった安倍氏はTICADを粘り強く進めてきたのであり、今回の一件は悔やんでも悔やみきれるものではない。

複雑な国際事情が絡む「クルド人問題」

 いわゆる「外国人問題」として、関心を集めている一件として埼玉県川口市のクルド人の問題がある。まるで不法移民が好き勝手をしているという印象が拡散しているが、これも全く個別の問題であり、そして問題の本質が世論に知られていないという構造がある。

 クルド人というのは、イラン、イラク、トルコ、シリアの4カ国にまたがって生活し、アラビア語のクルド方言を話し、スンニ派の信仰を持つ民族である。そして、過去100年以上にわたって独立を求めつつも果たせていない。理由は簡単で、イラン、イラク、トルコ、シリアの4国ともに、政府としては自国の領土が削られる形での「クルディスタン独立」は自国世論には猛反発されるからだ。

 この問題に関する日本の立ち位置は複雑である。まず、トルコ政府としては軍事行動を伴うクルドの独立派は、テロリストとして厳しく取り締まってきた。そのトルコと日本は、非欧米圏から西側同盟に参加している同士として、政府間には歴史的に強い友好関係がある。したがって、政治亡命を主張して日本にやってくるクルド難民については、取り締まってトルコに送還するという動機はある。


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