一方で、アメリカの中東戦略にとってはクルド人の権利を認めることが行動の基軸となっている。イラク戦争では、フセイン政権のクルド人弾圧が戦争の動機の背景にあったし、イラン革命政権によるクルド弾圧にもアメリカは関心を払ってきた。シリア内戦においても、イスラム国(ISIS)やアルカイダ系に対抗するクルド系には、アメリカは一目置いてきた。従って、イラク戦争の後方支援を行うなど、アメリカと連携している日本には、クルドの人権に敏感であるべき、そんな動機もある。
そうした複雑な事情を反映して、コミュニティをまとめて仕切るような人望のある人物は、トルコから危険視され摘発されてきた結果、川口のクルド人コミュニティには内部抗争を止めるリーダーが不在となっている。これに、産廃処理コストを最小化したい発注業者の動機、反社勢力を潰した結果、産廃処理という「汚れ役」の受け皿を失っている問題などが重なっている。つまり、川口のクルド人問題というのは、極めて特異な要素の重なった個別の事象と言えよう。
それぞれ異なる要因がある「外国人問題」
よく見ていくと、「観光公害」という括りで騒がれている問題も個別の問題の集積に過ぎない。空港やホテルなどでスーツケースの放置が相次いでいる問題は、お土産の購買行動が盛んでGDPに貢献してくれている有り難い話である。その上で、放置が起きるというのは、大型スーツケースへの買い替えサービスや、下取りについての制度が不在という個別の問題が起きているだけだ。
民泊のゴミ問題も、ゴミの収集ルールを多国語で説明する工夫が足りてないだけというケースが多いと考えられる。社寺や鉄道車内でのマナーについても、背景を含めた説明が多国語で展開されれば収束するであろう。
外資の投機マネーによる不動産バブルについては、既に加熱してバブルが膨張し、仮に一瞬でも円高が来れば利益確保の投げ売りになるような危険水域に入っている。だが、これも成長戦略を焦って乱開発を許した産業政策や都市計画に原因がある。巨大な不動産バブル崩壊で荒廃した中国の不動産市場を嫌って、安全性の高い日本の不動産をポートフォリオに加えたがる投資家は、あくまで経済合理性に基づいて行動しているのであって、彼らを批判しても始まらない。
社会の統制や苛酷な受験競争を嫌って、子どもの教育を目的として日本に移民する中国人も増えている。しかし、このグループこそ、人口減の中で高度知的人材の不足を補ってくれる層であり、しかも自由と民主主義という日本の価値観を理解する層である。日本語を第一言語とする知的な若者を育てようというのであるから、このグループについては、日本社会としては歓迎こそすれ排外の対象とするのは全くの見当違いと考える。
