民主党内の勢力は左派優位になる?
今回の選挙結果を受けて、民主党左派が勢いを増しているとの論評もなされている。25年8月にギャラップ社が行った世論調査では、民主党支持者で資本主義を好ましいとみる人が42%にとどまる一方で、社会主義を好ましいとした人は66%だった。
民主社会主義者を自称する人物が勝利したニューヨーク市長選挙の結果を見れば、そのような論評をしたくなるのも当然かもしれない。だが、バージニア州とニュージャージー州で勝利した州知事候補は、いずれも穏健派だということを忘れてはいけないだろう。
マムダニが勝利したニューヨーク市は、全米で最もリベラルな都市の一つであり、20世紀初頭から一貫して有権者の4分の3以上が民主党に有権者登録している。時期によっては市議会議員の全てを民主党が押さえることもあるほど民主党が優位である(ただし、市長選挙では、20世紀以降でも他党の候補が勝利している。その点は拙著『アメリカ型福祉国家と都市政治―ニューヨーク市におけるアーバン・リベラリズムの展開』を参照していただきたい)。
そのような市であれば、左派的傾向が強い候補が勝利しても、さほどおかしくはない。89年の市長選挙で勝利してニューヨーク市初の黒人市長となったデイヴィッド・ディンキンズも自らを社会主義者と称していたし、14年から市長を務めたビル・デブラシオも周囲からは極左と評されることがあった。
今回の選挙結果を受けて、民主党左派が活気づき、党内でアイデンティティ重視派と経済左派が発言力を増そうとしている。だが、注意する必要があるのは、今回の選挙でマムダニが圧勝したわけではないということだ。
前ニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモが民主党の予備選挙で敗退した後、無所属の候補として出馬していたが、CNNの出口調査によれば彼が41.6%の支持を得ている(マムダニの支持率は50.4%)。クオモがセクハラ疑惑で州知事の座を追われたことを考えると、得票率差が10ポイント未満だったことは驚くべきだ。
これは、民主社会主義者を自称して高所得者層への増税などを打ち出したマムダニに対して「資本主義を守れ」と主張する声が強かったことの表れであり、マムダニにマンデート(一任)が与えられたとは決して言えない結果なのである。
そして、バージニアとニュージャージーは、民主党優位州とはいえ州知事選挙では共和党に足元をすくわれる可能性もある州である。それらの州で民主党の予備選挙を勝ち抜いたのは穏健派であったことを見過ごしてはならないだろう。
マムダニに関しても、同じく民主社会主義者を自称しているバーニー・サンダースやアレクサンドリア・オカシオ=コルテスは早くから支持を表明したが、党主流派とされる人々は積極的な支持表明をためらった。バラク・オバマ元大統領や民主党下院院内総務のハキーム・ジェフリーズは最終的には支持を表明したが、上院院内総務のチャック・シューマーは最後まで支持を明言しなかった。
民主党は、左派の勢いの強さを痛感してはいるものの、党全体として左派寄りの立場をとることが全米レベルで適切ではないと判断していることを示している。
イスラム教徒で反イスラエル候補が勝利した意味
01年の911テロ事件で多くの犠牲者が生まれたニューヨーク市の市長選で、イスラム教徒が勝利したのは歴史的な事態だ。アメリカが一般的に親イスラエルの立場をとることが多いことを考えても、衝撃的だといえるだろう。
ニューヨーク市は全米で最も多くのイスラム教徒が居住する都市であるとともに、最も多くのユダヤ教徒が居住する都市でもある。マムダニの親パレスチナでイスラエルに批判的な立場は、ユダヤ系有権者の反発を招くとの危惧があった。
