だが、ユダヤ系とアラブ系を取り巻く状況は、実は複雑だ。アメリカのユダヤ系団体が圧倒的に親イスラエルの立場をとっていることは知られているが、実は一般的なユダヤ系市民は必ずしもイスラエル問題を重視しているわけではない。
経済的に必ずしも豊かでない人も多く、社会経済的争点を重視していて外交問題に興味を持たない人も多い。24年に行われたピュー・リサーチ・センターの調査によれば、アメリカのユダヤ系の7割が民主党を支持している。また、今年9月にワシントンポストが中心となって行った世論調査では、ユダヤ系の多くがガザにおけるイスラエルの行動を強く批判しており、とりわけ若年層でその傾向が強い。
他方、アメリカにおけるアラブ系の実態については必ずしもよくわかっていない。911テロ事件以後、アラブ系はヘイトクライムの対象とされることを恐れてアラブ系のアイデンティティを出さず自らを「白人」と称して、共和党支持を示すこともあった。
24年大統領選挙の際にアラブ系が思いのほか共和党を支持しているとの報道もあったが、これはアラブ系が政治的立場を変えたというよりは、白人と称していた人々がアラブ系と称することが可能になったことを示していた可能性もある。パレスチナの立場を支持する人物が民主党内で大きな支持を集めたことは、アメリカにおけるアラブ系に対する態度を読みとくうえでは示唆的である。
中南米系の投票行動は?
最後に、現在アメリカで最大のマイノリティ集団となっている中南米系の動向についてもコメントしておきたい。24年大統領選挙では、トランプが中南米系から46%の支持を得たことが注目を集めた。
中南米系は概して民主党を支持する傾向が強く、それ以前の大統領選挙で中南米系から最も多くの支持を得たのはジョージ・W・ブッシュの45%だった。それを上回る支持を、中南米系移民を「強姦魔」や「麻薬密売人」と称したトランプが獲得したことは、世界に衝撃を与えた。そして、中南米系が白人と同様の価値観を身につけて政治的立場も変更するという「ホワイトシフト」が起こりつつあるとの指摘もなされていた。
州や地方レベルの選挙では大統領選挙と比べると出口調査の分析は必ずしも容易ではなく、適切な分析には時間を要する。だが、暫定的な分析によれば、バージニア州とニュージャージー州の知事選で勝利した民主党候補はともに、中南米系の間で約30ポイントの差をつけてリードしていたとされている。また、住民のほぼ半数が中南米系とされるニュージャージー州のパセイク郡では、24年大統領選挙でトランプが3ポイント差で勝利したが、今回の知事選挙で民主党候補は15ポイントの差をつけて勝利している。
中南米系は経済問題を重視して投票している可能性が高いように思われる。共和党は二大政党のいずれにも強い帰属意識を持っているわけではなく、政治や経済の状況に応じて投票先を変えるようになっている可能性が高い。中南米系の支持をいかにして獲得するかが、選挙結果を決める上で重要なのは、今後も変わらないだろう。
今回の選挙では際立った特徴を持つマムダニが勝利したことを受けて様々な論評がなされている。だが、結果を詳細に分析することで、米国政治に関してより多くのことが見えてくるといえるだろう。
