2025年12月14日(日)

21世紀の安全保障論

2025年11月10日

自衛隊に頼らない危機管理体制の構築を

 自衛隊は国の行政組織の一つであり、隊員数は業務を遂行できる最小限の人数となっている。しかし、隊員の募集難や中途退職の増加によって人手不足は深刻だ。

 政府は処遇改善などの対策を講じているが、生産年齢人口という母数が減少する中では必要な隊員数を確保できるか不透明だ。さらに、日本を取り巻く安全保障環境の厳しさが続けば、自衛隊が本来任務の中で最も重要な「防衛出動」以外の業務に割ける隊員と時間は限られてくる。今や、「困ったことがあっても自衛隊は来てくれない」と考えるべきだ。

 自衛隊に頼らなくても自治体が不測事態に対処する一つの方法として、定年または中途で退職した後も地域に居住している自治体職員、警察官、消防官、自衛官などが、そのスキルを生かして不測事態の際に自治体をサポートできる仕組みを構築することが考えられる。この際、予備自衛官、即応予備自衛官、予備自衛官補からなる自衛隊の「予備自衛官等制度」は大いに参考となるであろう。

 特に、予備自衛官補には自衛官として勤務した経験が無くても個人の技能・資格を生かせる「技能コース」があり、衛生(医師、薬剤師)、語学、サイバー、情報処理、法務など分野で多くの専門家が自衛隊の活動に参画している。自治体としても、クマ被害防止のみならず、サイバー攻撃などの多様化する危機に精通した人材から必要な時にサポートを受けられる仕組みを構築すべきだろう。

 これによって、平素の自治体の職員数を増やすことなく、危機へのレジリエンスを高めることが可能だ。今回の自衛隊によるクマ被害防止への協力が、自治体の危機管理体制を改善する契機となることを期待したい。

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