政治とカネをめぐる問題を解決するには、議員定数を変更する以前に政治資金の透明性を高める各種の改革が必要だ。現代はインターネットによって誰でも政治をめぐるお金の流れを容易に知ることができるから政治資金の透明性は容易に実現できるはずである。
真っ先に行うべきは透明性を高める議論である。それをしないで定数削減の議論をしても国民の政治不信は解決しない。問題が繰り返されるだけだ。
議員定数削減の議論をするためには、定着していた中選挙区制がなぜ廃止されて「小選挙区比例代表並立制」が1996年の衆院選から導入されたか、という問題にさかのぼらなければならない。
「小選挙区比例代表並立制」はなぜ導入されたのか
「小選挙区比例代表並立制」が導入された契機は、1990年前後にリクルート事件、佐川急便事件、ゼネコン汚職事件など政治とカネをめぐる事件が相次いだことだった。中選挙区制だと選挙活動に多額の人とお金がかかるという理由もあった。
初期の焦点は政治とカネの問題をなくすための企業・団体献金の禁止だったが、その議論が政治改革の議論に広がり、イギリスやアメリカのような二大政党制によって政権交代を実現させ、政治腐敗の原因をなくすという議論に発展し、小選挙区制の実現に至ったのである。
しかし小選挙区制には、選挙区における最高得票者以外の票は死票となり、必ずしも全体の民意と議席数が比例しないという致命的な欠点がある。小選挙区制・二大政党制で知られるイギリスでは全体の得票数と獲得した議席数の逆転現象は複数回起きていた。
日本の参議院では、選挙区定数は4人区・5人区など中選挙区と1人区・2人区など小選挙区と両方ある。2010年参議院選挙では1人区・2人区など小選挙区で73人が選出された。
その内訳を見ると、当時の民主党は約39%という第1位の得票を得たが28人しか当選せず、一方自民党は約33%の得票しかなかったが39人が当選、ほかの各党は約28%の得票があったが死票が多く6人しか当選しなかった。いわゆる逆転現象が発生していたのである。
そのような小選挙区制の欠点を補うため比例代表との並立制が採用され、結果的には二大政党制にはならなかったが、少数政党は存続することができて、現在の多党化時代を招来したわけである。
二大政党制が良いのか?
「小選挙区で落選した議員が比例で復活当選してくるのはおかしい」という声もあるが、だからといって小選挙区制のみにするとその弊害が大きい。極端な例だが仮に全選挙区で特定の政党が51%の得票であればすべての議席を手中に収めることができる。残り49%の民意は議席を一つも得ることができない。独裁政権の誕生となりかねない。そこで惜敗率という考え方が導入され、小選挙区で負けた人の内から僅差でまけた順に復活できるシステムになった。
比例区定数の削減は自民党と立憲民主党に有利に働く。日本維新の会は自党の議席は減っても身を切る改革だと言う。しかし多党化を是とする国民世論は比例区の削減に納得するのか。
