ベトナムから見える日本のコメの将来
ベトナム産のコメはシンガポールやオーストラリアでも非常に安く売られている。筆者が2025年2月に訪問したオーストラリアメルボルンでは日本から輸入された高品質なジャポニカ米と混ぜて食べている人もいるとのことだった(『「コメに700%の高関税」米報道官“批判”へ持っておくべき心構え、「日本産米をもっと食べたいけど、値段が…」オーストラリアで見たコメ消費の現実』)。
こうした低価格化の厳しい国際競争を踏まえると、いくら日本が現時点の800〜950円/kg前後の米価から低価格化を図っても、輸出競争は容易ではないことが想像される。逆に、こうした安価なコメが日本に入ってくれば、多くの一般消費者は喜んで買う可能性があり、その点が国内市場では大きな課題になるに違いない。
日本では生産者も行政担当者も海外事情をあまり知らないことが問題であり、今後、政策面でもそうした国際的な視点を取り入れる必要がある。
50haもの規模の農家が機械をほとんど所有しないで、コストダウンを徹底し機械作業を外部委託している合理的な考え方は日本も見習える点だ。また、直播でドローンを播種から収穫までフル活用している点もスマート農業の利用という点で参考になる。
日本ではスマート農業というと高価な機械を持つことが前提になることが多い。田植をしない省力化可能な直播も最近になって話題になり、節水型乾田直播栽培が普及し始めたばかりである。
日本のコメの生産費は個別経営体で1キロ当たり約260〜270円、規模の大きい組織法人経営体でも約200円強かかる(出典:農林水産省『農業経営統計調査』)。長粒種を中心にベトナムの農家の出荷価格が40〜50円程度という低価格から考えると、日本の生産コストはその4〜7倍程度にあたる。
物価全般が高い日本の稲作では、すぐに真似できる数字ではない。ただ、経営を合理化するためにスマートに経営を考え、コストダウンを徹底するという考え方は、日本でも取り入れられるだろう。
海外視点を持たないと日本のコメ政策が独りよがりのものになり、日本の稲作がこのまま内向きに進めば、10年後には世界の競争から取り残されるのではないかと心配になる。現在の「価格差」は、今までの日本の「視野の狭さ」を表していないか。国内市場だけを見ていては、日本のコメ産業は持続できないだろう。
今後、一部の生産者が行っている直播や作業委託(コントラクター)によるコストダウンや環境保全などを明示した付加価値の向上などは進めて行くべきだ。今こそ現実を直視し、国際的な視野で日本のコメづくりのあり方を再検討すべき時ではないか。
