しかし、皇太子はUAEとの間で“代理戦争”を演じているスーダン内戦問題ではトランプ氏に調停を要請し、同氏も「着手する」と応じた。この内戦は23年4月、国軍と準軍事組織「即応支援部隊」(RSF)との間でぼっ発。国軍のブルハン統合評議会議長とRSFのタガロ司令官の権力闘争が発展したものだ。
皇太子の深謀遠慮
「皇太子の真の狙いは同じ石油大国の隣国UAEをトランプ氏の手を借りて追い落とすことだ」というのがベイルートの消息筋の見方だ。内戦には、サウジ、エジプト、カタールが国軍のブルハン議長を、UAEがRSFのタガロ司令官をそれぞれ支援し、膨大な兵器を送り込んだ。双方はドローン(無人機)も供与し、激しい戦いが続いてきた。
内戦はさながら「サウジとUAEの代理戦争の様相」(同筋)を呈していった。40万人が犠牲になり、1300万人が難民と化して深刻な人道危機が発生した。スーダンはサウジにとっては、紅海を挟んだ対岸のアフリカにあり、多数の難民が海を渡ってサウジに流入するなど安全保障上の脅威となった。
サウジとUAEがスーダンで主導権争いを繰り広げるのは互いに農地を確保し、食料を得るためだ。両国は当初から仲が悪かったわけではない。ムハンマド皇太子は20も年上のムハンマド大統領を兄貴分として敬っていたが、イエメン内戦への介入を契機に次第に関係が冷却化した。
イエメン内戦では、サウジがUAEなどの協力を得て政府軍を支援、反政府フーシ派を叩くべく介入した。だが、戦闘が泥沼化するにつれ、UAEがイエメン南部の分離独立派を支持し、政府軍、フーシ派、分離独立派による三つ巴の戦闘に発展した。これでサウジとUAEの仲は決定的なものになったが、その関係がスーダンにも波及した格好だ。
サウジはメッカ、メジナというイスラムの聖地の守護者にして、世界1、2の石油大国。アラブ世界や湾岸地域の「盟主」との誇りが強い。
これに対してUAEも石油大国として独自の外交を展開してきた。いわばサウジとはライバル関係にあり、AI大国を目指して争ってもいる。
皇太子は脱石油国家を目指す大プロジェクト「ビジョン2030」を推進しており、未来都市ネオムや歴史的発祥の地であるディルイーヤの不動産開発も含まれている。中東の「情報ハブ」になることを掲げており、その前に立ちはだかるUAEをなんとしても弱体化させたいのが本音だ。
